道浦母都子『無援の叙情』

無援の抒情 (岩波現代文庫)

無援の抒情 (岩波現代文庫)

 以前、どこかの雑誌で紹介されていて買った本。団塊世代全共闘世代の歌人の短歌集。読んでいて、人生をいっぱいいっぱいで生きている人なのだなあと思う。学生闘争時代の作品には、青春の身を切られるような切実な熱情と哀切さがある。運動への想いや家族を歌う一方で、生身の女が息づく短歌がある。そのいっぱいいっぱいな感じが切ない。ただ、闘争後の作品を読んでいると、この人の心は70年安保で凍結してしまったか、死んでしまったのではないかと思わせるものがある。過去にこだわり、未来へと歩み出し切れない人生が歌に浮かび出る。いっぱいいっぱいさに息苦しさを覚える。
 短歌を通じて感じるのは、この人は基本的に古風な女性だと思う。革命を歌いながらも、家族や結婚、子孫への思いなどの価値観は日本の風土のなかにある。自由な女性というのとも違う。道浦が生まれたのは1947年(昭和22年)、村上春樹は49年(昭和24年)。ともに早稲田大学文学部。同じ頃にキャンパスにいたこともあるのだろうに、ふたりの言語世界も関心も、ずいぶん時代が離れているような印象を受ける。短歌と小説という表現形式の違いなのか、わからないが、ひとことで団塊世代といっても、幅があるのか、ずいぶん違うものだと思う。ただ、印象としては、団塊世代を代表する感性は道浦という感じがする。あの世代は意外と古風なのかもしれない。村上はもっと広く現代の日本人を描く作家という印象で、団塊代表というイメージはない。
 ともあれ、短歌集を読むのは初めてだったのだが、短歌の世界に心惹かれる。短歌は心に訴えてくる。ちょっと短歌の本を読んでみようかと思う。