滝口康彦『拝領妻始末』

拝領妻始末 (講談社文庫)

拝領妻始末 (講談社文庫)

 滝口康彦の時代小説短編集(古本で見つける)。カンヌ映画祭に出品されている三池監督の「一命」の原作(そして小林正樹監督の名作「切腹」の原作)である「異聞浪人記」に興味があったのだが、タイトルの「拝領妻始末」も三船敏郎仲代達矢主演、小林正樹監督で「上意討ち−−拝領妻始末」として映画化されている。滝口の小説は初めて読んだのだが、面白かった。武士道と下級武士の関係は、村上春樹いうところの「システム」と「卵」を思わせる。短編小説として起承転結がはっきりしとした物語がよく出来ているし、文章も無駄がなく、読みやすい。どれも甘い物語ではなく、ハードボイルド時代小説といった感じ。
上意討ち-拝領妻始末- [DVD] 切腹 [DVD] 映画との関係で言うと、「切腹」は「異聞浪人記」を忠実に映画化している。そして、それを映像的世界に昇華しているところがすごい。行間まで見事に映画化している。「一命」は「切腹」のリメイクではなく、「異聞浪人記」の再映画化という位置づけらしいが、「切腹」は見事な脚色、映画化で、どうやっても「切腹」と比較されるのは仕方がないだろう。小説のイメージから言えば、主人公の津雲半四郎(「切腹」では仲代達矢)は市川海老蔵よりも役所広司の役なのだろうなあ。市川海老蔵は井伊家家中の沢潟彦九郎のほうが向いている感じがする。「切腹」では丹波哲郎がやっていた役。一方、「拝領妻始末」はドラマチックに脚色されていた。
 収録されていた短編は「拝領妻始末」「下野さまの母」「千間土居」「上意討ち心得」「異聞浪人記」「三弥ざくら」「綾尾内記覚書」「悲運の果て」。藩政の非道を描いたのは「拝領妻」「下野さま」「千間土居」。武士のメンツが「上意討ち」「浪人記」「三弥ざくら」、敵討ちの悲惨さが「綾尾」「悲運」。どれも面白く、どれも映画やテレビにできるような内容だった。