ローレンス・J・コトリコフ、スコット・バーンズ『破産する未来』

破産する未来 少子高齢化と米国経済

破産する未来 少子高齢化と米国経済

 副題に「少子高齢化と米国経済」。米国も日本同様、少子高齢化によって年金負担が増し、国家財政が破綻するという悪夢のシナリオは変わらない。筆者は「世代会計論」の学者で、このままでは親が子を食い尽くすようなことになると警鐘を鳴らす。「破綻する未来」は、これから高齢化していくベビーブーマーが子供たち(若者たち)の未来を奪っていくことでもある。こうした状況からいうと、所得税から消費税へという流れは、若者の所得に過重な税負担をかけるのではなく、資産で暮らす高齢者にも応分の負担をしてもらうという点で、少子高齢化福祉国家にとっては公平は税制ということになる。消費税については、こうした側面からも議論すべきなのだろうな。
 この本では、少子高齢化社会で年金を維持していくための対策として議論されている「技術の進歩、政府資産の売却、資本の深化、海外からの投資、両親世代への期待、雇用主の協力、長時間労働、移民政策、ブゥードゥー経済学(トリクルダウン理論)、浪費・不正・乱費の排斥」はいずれも本質的な解決にはならないと批判する。そして、対策も提案しているものの、結局のところ、年金の減額、増税、インフレという結末にしかならないのではないかという。このあたり、嫌な話だけど、リアリティがある。そして、財政破綻によるハイパーインフレという点で、アルゼンチンの次に来るのは日本ではないかと予言している(ちょうどネットバブルが崩壊した頃に書かれた本なので、アマゾンも崩壊すると予言されている)。
 個人としての対策も紹介されているが、米国人向けなので、リスクとしてみているのは、インフレとドルの崩壊ということになる。というわけで、老後資金を自己防衛する運用として、まず挙げられるのは「金」(やっぱりねえ)。そして「インフレ連動債」をコアに、「インターナショナル・ボンド・ファンドと外貨預金」「貴金属ミューチュアル・ファンド」「エネルギー債」「チャイナ・ファンドを主としたインターナショナル・エクイティ・ファンド」での運用を提唱している。この本が書かれたのは2004年だが、これらの分野は既に高騰しており、的確な指摘であると同時に、みんなが気がついたときには食いつくされているともいえる。マーケットは早いなあ。この本では、株式市場のボラティリティは高すぎて安定的な運用は期待できないと主張しているが、運用を提唱したマーケットも同様にボラティリィティの高い世界に突入してしまっているような気がする。難しい時代だなあ。
 最後に、目次で内容を紹介すると...

第1章 赤ん坊から老人へ
第2章 真実は小説よりも悪い
第3章 ニューヨークの地図でロサンゼルスを走る
第4章 強壮剤、怪しげな薬、その場しのぎの応急処置
第5章 臨界に向かって
第6章 進路を変える
第7章 ライフ・ジャケットにしがみつけ!
第8章 自分の未来を救おう

 第1章から第3章までは、年金危機、社会保障危機がいかに隠されているかを指摘している。世代会計の基本方程式は、こんなもの。

 将来世代の純税収の現在価値
=政府支出の現在価値+公的債務から公的資産を引いたもの
 −現在世代の純収入の現在価値

 で、さらに、これのバージョンアップ版があって、それが

 将来世代の負担
=政府支出の現在価値+公的債務+潜在的債務
 −現在世代の支払う税収の現在価値

 潜在的債務とは

 ベビーブーム世代およびその他の現在生存中の人々に保証された、各種年金、メディケア、フードスタンプ生活保護者への食券)、生活保護給付金、メディケイドなどの移転支出

 要するに、みんなが今後もらえることが約束されたと思っている年金や社会保障の金額。支払うことを約束したものだから、これも潜在的には債務になるという発想。この数字をあてはめていくと、もはや、潜在的債務(今後、急拡大していく高齢者に対する支給額)を減らすか、現在の世代が支払う税金を増やさない限り、少子化していく将来世代は、この負担に押しつぶされてしまうという話になってくる。自分たちの子供たちのために負担を引き受けることをベビーブーマー、日本でいえば、団塊世代は引き受けることを迫られるというわけ。この式をもとに考えると、説得力がある。日本の場合は、政府支出も減らさないとね。