太田文平『寺田寅彦 人と芸術』

寺田寅彦―人と芸術

寺田寅彦―人と芸術

 随筆家としての寺田寅彦に主眼を置いた評伝的エッセイ集。「寅彦の寂寞」「寅彦の眼」「寅彦をめぐる人々」の3章構成で、夏目漱石との関係に、ふたりの「寂寞」という共通性を見る。第1章では作品分析、第2章では「関東大震災寺田寅彦」、「『天災は忘れたころ来る』考」、第3章では「漱石と寅彦の師弟関係」「子規と寅彦との交流」などが面白かったが、第3章の「『団栗』のヒロイン−−寺田夏子覚書」を特に関心をもって読んだ。最初の妻、夏子を若くして失ったことが寺田寅彦の心に寂寞を生んだのかと改めて思う。著者は、吉村冬彦という寺田寅彦ペンネームにも、夏子への想いを見ている。