伊集院静『大人の流儀』

大人の流儀

大人の流儀

 「週刊現代」連載のコラムをまとめた本。「大人の流儀」ともいえるし、大人の「愚痴」「小言」「叱責」という感じもする。このあたり、伊集院静本人もコラムの中で「愚痴」が多いといわれると書いているから、自覚しているのかもしれない。読んでいて、山口瞳のエッセイを思い出してしまった。『礼儀作法入門』みたいな...。
夏目雅子―27年のいのちを訪ねて で、この本、ベストセラーになっているのは「流儀」もあるかもしれないが、この本で初めて、亡くなった夫人、夏目雅子について書いているからだろう。本編のコラムでは「妻と死別した日のこと」で軽く出てくるだけなのだが、巻末に、このコラムをきっかけに「週刊現代」から寄稿を依頼されて書いたという「愛する人との日々〜妻・夏目雅子と暮らした日々」が収録されている。25年の歳月を経なければ、書けなかったものというのがわかる。哀歓に道が話だが、まだ、これでも書き切れてないのもわかる。25年の歳月でも文学的に昇華するにはまだ時間が足りないのかもしれない。読んでいて、いまの夫人の篠ひろ子さんも本当にすごい人だなと思う。こうした哀しみを抱えた人を受け入れ、癒したわけだから。
 この巻末の文章が良くて、本編のコラムについては面白いは面白いのだが、いまひとつ乗りきれないところもあった。伊集院氏というと、どうも無頼のイメージが強くて、そのイメージが邪魔するのかもしれない。こうした話ならば、山口瞳のほうが味わいがあるなあ、などと思ってしまった。イメージはイメージであって、本人とは違うのかもしれないが、無頼に「愚痴」「小言」や政談はどうもしっくりこない。
礼儀作法入門 (新潮文庫) 酒呑みの自己弁護 (ちくま文庫)