サラ・ヴァン・ゲルダー+「Yes! Magazine」編集部編『90%の反乱』

99%の反乱?ウォール街占拠運動のとらえ方?

99%の反乱?ウォール街占拠運動のとらえ方?

 副題に「ウォール街占拠運動のとらえ方」。「Occupy Wall Street」運動と同時進行で執筆され、緊急出版された本という。山形浩生氏が解説を書いていたので買ってしまった。この運動、既に警官隊に排除されてしまったが、いまはどうなったのだろう。
 この本、「Yes! Magazine」という「反企業エコ雑誌」(訳者解説)に掲載された、一種の檄文であるという。そのせいか、運動の高揚感がある。でも、その高揚感に乗り切れない。1%に富が集中し、1%と99%の格差が拡大することは異常な状態であり、問題なのは確かだが、格差問題解消の解は簡単には見えてこない。さらに、この占拠運動自体、要求リストがあるわけではなく、変革を求めるものだという。その理想はわからないではないが、そこから何が生まれるのか、見えてこない。政治、企業、金融、メディアに対する不信の根深さだけが際立つ。求めているのは、拝金文化、物欲文化、成長至上主義を排す一種の文化革命なのだろうか。こんな一節がある。

 直接民主主義、自由、連帯原則に基づいた社会が可能なことを論理的に証明することはできない。ただ行動によってそれを示すのみだ。アメリカ中の公園や広場で、人々は自身が参加し始めたことによって、それを目の当たりにしている。アメリカ人は、自分たちを人民として規定しているのは自由と民主主義に対する愛だと教えられて育つーーただし絶えずそれとなく、本当の自由と民主主義は決して存在しないとも教えられるのだが。

 やっぱり運動なのだなあ。でも、ただ夢を語るだけではなく、いろいろと経済改革への提案もある。金融に対する処方箋としては「企業をウォール街から解放して、健全な市場原理に基づく民主的に責任ある経済を築くために取り得る6つの手順」を示しているのだが、そのひとつにこんな部分がある。

 適切な規制措置および財政措置を施行して、金融市場と現金および銀行制度の統合性を確保する。これらの措置で生産的投資を適切に助け、銀行機関のはたらきを基本的な銀行業務機能に限定し、金融投機その他の非生産的な金融ゲームを、違法かつ不利益なものにする。

 国として保護する銀行の業務を本来の融資に限定しようというのは、「コアバンク」とか「ナローバンク」とか、いわれているものと同じだと思う。この議論は金融の暴走を危惧する経済界の人たちからも1990年代に提起されていた。放っておくと暴走してしまう金融の問題は、99%にとっても1%にとっても問題だったし、金融危機のリスクはウォール街の内部からも警告されていた。99%が求める処方箋と1%が考える処方箋は意外と同じところに収束していく可能性もあるのかもしれない。
 もう一つ複雑な気持ちになるのは、この運動のインフラとして利用され、また活用を推奨されているのが、Facebookであったり、Twitterであったりすること。つまり、インターネットがインフラとなっているのだが、そのIT企業を支えているのもまたウォール街であること。ITのようなリスクの大きな、言葉を変えれば、投機性の高いイノベーションに資金が供給されるようになったのは、ジャンクボンドの帝王と言われたマイケル・ミルケンをはじめとした金融革命家たちが開発した金融イノベーションの結果とも言える。実際、99%が頼るFacebookの従業員たちは今度のIPO(株式公開)で、1%の世界に入る(思いっ切り1%ぽい成金ぶりで顰蹙を勝っているFacebookの役員もいるらしい)。何だか皮肉だなあ。こうしたイノベーションについては、99%のイデオローグたちはどう考えているのだろう。
 この本では、1960年代の市民運動にノスタルジーたっぷりのラルフ・ネーダーを代表に、久しぶりに来た「レボリューション」の雰囲気にリベラルな人たちが燃えている様子が見て取れる。それがまたノスタルジックな雰囲気で、何だかなあ、と思うのだが、この99%が1%に問い掛けたものは、1%の側の人たちも、もっと深刻に受け止めなければいけないのだろう。格差は社会を不安定にするし、社会が崩壊すれば、1%の繁栄の基盤も崩壊する。
 ここ数年の経済の混乱ぶりをみていると、冷戦の終焉以降、グローバル化に対応した国内企業の競争力強化、金融危機・経済危機に伴う緊急避難的救済などと言っているうちに、極めて企業にやさしい社会になってしまい、企業・金融に対する拮抗力が失われてしまったことがあるように思える。金融危機で救済されながら、高額の報酬をとることを恥じないというのもなかなかすごい神経。企業・金融に対する拮抗力をどう作るのかが問題なのかもしれない。
 政治も、行政も、メディアも、学者も企業に買われる時代ーー原発問題では、そんな構図が見えてしまった。労組は企業と利害をともにする運命共同体の色彩が濃くなった。でも、この占拠運動の人たちが拮抗力になるというイメージもあまり湧いてこない。そうは言っても、こうしたことを考えるきっかけを作ったことは貴重なのだな。その意味では、この異議申し立ての意義は大きいのだろう。みんな大人になって何も言わないことが、企業をさらに暴走させているわけだし。
 最後に、世界中に広がった公園や広場の占拠運動では、スペイン人が書いた「平和的革命の作り方」という全体集会のハウツー本が教科書になっていたのだという。そうしたことが紹介されているのも、これが革命運動を訴える檄文型の本だからかもしれない。ちなみに今は「Occupy Wall Street」のサイトに、占拠運動のノウハウページがある。
Occupy Wall Street | NYC Protest for World Revolution => http://bit.ly/xt28j7
★建設中のフェイスブックCOOの大邸宅、近所で物議 - WSJ日本版 => http://on.wsj.com/wkB2kD
ザッカーバーグCEOの持ち分、2兆円相当も−フェイスブック上場で - Bloomberg => http://bit.ly/xAVL9c