湯浅健二『日本人はなぜシュートを打たないのか?』

日本人はなぜシュートを打たないのか? (アスキー新書 018)

日本人はなぜシュートを打たないのか? (アスキー新書 018)

 湯浅氏自身のドイツ・サッカー留学をベースにした体験的サッカー論という本。サッカーには、それぞれの国の文化や国民性が反映される。それが「日本人はなぜシュートを打たないのか」という問題にもつながってきて、サッカー論としても文化論としても面白かった。志向されているのは、トータル・フットボールで、サッカー理論を理解する上でもわかりやすく、これからテレビ観戦するときに参考になる。
「不確実のサッカーだから最終的には自由にプレーせざるを得ない」
「勝負はボールがないところで決まる」
「クリエイティブなムダ走りが優れたサッカーのバックボーン」
「リスクチャレンジのみが発展のリソース」
「互いに使われるというメカニズム」
「主体的に考えて走ること(意図と意志をもつこと)がすべてのスタートライン」
「組織プレーと個人プレーのバランス」
「天賦の才という諸刃の剣」
ーーなどなど、キーワードも、なるほどと思うものが多かった。自らの実体験をもとに紹介され、読んでいると、テレビで見る様々なチームや選手が頭に浮かんできて、だから、ここは強いし、ここは弱いのね、という理解につながる。なぜ、バルセロナが強いのかもわかる。
 で、目次で内容を見ると...

INTRODUCTION 勝負は、ボールのないところで決まる
第1章 ボール周りだけで勝負を決めてしまう天才たち
    ーー組織プレート個人プレーのバランスーー
第2章 有機的なプレー連鎖の集合体1
    ーー攻撃のおはなしーー
第3章 有機的なプレー連鎖の集合体2
    ーー守備のおはなしーー
第4章 サッカーは本物の心理ゲームである
第5章 サッカー監督という心理マネージャー

 守備から攻撃が始まるというのも納得。著者は、ジーコ・ジャパンの問題は、守備の意志と思っていたようだった。で、こうした面でも、中田英寿はすごかったのだな。攻撃だけでなく、守備でも検献身的だった。ただ、付いていくる者は少なかったというが...。選手を自由に任せたとき、誰もがまず逃げたがるのは守備なのかもしれない。だからこそ、守備に献身する意志統一が大切なんだろうなあ。それと、献身的なムダ走り。不確実なサッカーでは、どこにチャンスがあるか、わからないのだから、ボールがないところでも走る。そして、走ることがチャンスを生む。不確実なんだから、リスクをとらなければ、チャンスも生まれない。海外勢がよくシュートを打つのも、シュートという数少ないチャンスに出会えたら、その機会を活かすという意識があるかららしい。
 サッカーが世界で楽しまれるのは、サッカーは人生と同じように不確実だからなのだろう。人生が不確実なように、サッカーも不確実なのだから、チャンスは少ないし、報われる時もあれば、報われない時もある。しかし、リスクをとらなければ、チャンスも結果も生まれない。そう考えている国民が多い。でも、日本は社会が安定し、人生は確実なものだと思うような幻想が強いから、リスクをとったり、チャンスの稀少性を体感的にわかっていないのかもしれないのだそうだ。ということは、最近、日本のサッカーが強くなってきたのは、日本でも「失われた20年」の間に育った若い人にとって、人生は不確実ということが実感されてきたためなのだろうか...なんてことまで、つい考えてしまう本でした。サッカーは奥が深いなあ。