山口義正『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』

サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件

サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件

 FACTA誌上で、オリンパス事件をスクープした山口義正氏の調査報道記録。どのようにオリンパス事件の端緒をつかみ、どのように取材したのか、そして記事掲載後、オリンパスはもちろん、大手メディアからも黙殺されたなかで、どのように事件を追い続けたのかが描かれる。ウォーターゲート事件ディープスロートがいたように、オリンパス事件でも内部の情報提供者がいたのだなあ。そうした勇気ある内部告発者たちがいなければ、事実が明らかになることはなかった。経営が破綻するまで隠蔽が続いたのだろうなあ。
ディープ・スロート 大統領を葬った男 で、読んでいて意外だったのは、最初から事件の全容を知っていたわけではなかったこと。情報開示されていないM&Aの巨額損失の取材から始まり、記事を掲載することで情報が情報を呼び、徐々に全体像を掴んでいったのだなあ。そして事件解明に果たしたウッドフォード元社長の存在の大きさ。ウッドフォード元社長がFACTAの記事を知人に教えられて、調査に乗り出さなければ、山口氏のスクープ記事があったとしても単発で終わってしまい、事件は闇から闇へと葬り去られていた可能性もあったのだなあ。
 推理小説を読むような展開で、一気に読んでしまえるのだが、読み終わっての爽快感はない。それは最終章が「官製粉飾決算」と題されているように、東証の上場維持判断など、どこか中途半端な決着になっているからだろう。菊川会長をはじめ、オリンパス経営陣に逮捕者も出たが、一方で、隠蔽に加担していたと言ってもいいような幹部社員が今も要職に残っているという*1。そう考えると、「深町」氏はじめ、オリンパスの再生のために内部情報を提供した人たちはどうなるのだろうかと考えてしまう。結局、今も情報漏洩の犯人探しに怯えながら、会社に残っているということなのだろうか。暗黒時代は今も続いているのだろうか。
 最終的に記事の正しさが証明されたという点では、調査報道物語としてハッピーエンドといえるかもしれないが、オリンパスに生きる人々の物語という意味では、ハッピーエンドとは言い切れないように思える。オリンパスの経営に透明性と合理性を求めた人たちは勝利を得たのだろうか。そのあたりが、どうもモヤモヤとする。それが小説とは違う現実の厳しさ、つらさかもしれない。
 疑惑の解明を求めるウッドフォード社長に、菊川会長は「君は日本のことがわかっていない」と言ったといわれる。菊川元会長自身は逮捕されてしまったわけだが、その言葉通りの結末ともいえる。日本の社会も、政治も、大手メディアも、ウッドフォード氏には背を向けたように思える。ウッドフォード氏自身がどう思っているのか。それは『解任』を読むしかないのだろうなあ。
★第18回雑誌ジャーナリズム大賞は山口義正氏の一連のオリンパス追求記事に => http://bit.ly/H5HDU8
解任

解任

*1:雑誌ジャーナリズム大賞とオリンパスの人事:阿部重夫発行人ブログ:FACTA online => http://bit.ly/H5Hss4