マイケル・ウッドフォード『解任』

解任

解任

 オリンパス事件を内部告発したマイケル・ウッドフォード前社長の手記。当事者ならではの迫力があり、一気に読んでしまった。と同時に、事件を隠蔽しようとしたオリンパスの旧経営陣、そして事件を黙殺した銀行、ジャーナリズムの姿勢に暗澹たるものを感じる。この事件、「FACTA」のスクープで始まったが、ウッドフォード社長がいなければ、闇から闇に葬られて終わったのかもしれない。それに、現状はハッピーエンドなのか、アンハッピーエンドなのかもわからない。真相を解明しようとするウッドフォード前社長を取締役会で糾弾した社外取締役が取締役・監査役の指名委員会のメンバーというのはブラックユーモアのような話。だが、それが現実なのだろうか。
サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件 「FACTA」で事件をスクープした山口義正『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』と合わせて読むと、外側、内側双方から事件を見ることができる。オリンパス社内の内部告発が大きな役割を果たしていたこともわかる。しかし、正義を信じて、内部告発した社内の人たち、現在の体制の中で無事に済むのだろうか。旧経営陣から逮捕者が出る一方、その体制を支えてきた経営幹部たちも残っている。粛清されたりしないのだろうか。読み終わると、心配になる。
 で、この2冊を読んでいて、どうしてもわからないのは、「FACTA」がスクープ記事を書いてから、ウッドフォード前社長解任後、フィナンシャル・タイムズが報道し、海外メディアが一斉に動き出すまで、なぜ日本の大手メディアがオリンパス事件について書かなかったのか。それだけが謎として残る。田中角栄の金権問題の時もそうだったし、大手メディアなど、そんなもの、と言うのはやさしいけど、それにしても、わからない。新聞、テレビがそこまで堕落してしまったとは思いたくないという気持ちが強すぎるのかもしれないけど...。