ムハマド・ユヌス『ソーシャルビジネス革命』

ソーシャル・ビジネス革命―世界の課題を解決する新たな経済システム

ソーシャル・ビジネス革命―世界の課題を解決する新たな経済システム

 貧困層のための銀行といわれるグラミン銀行の創設者であるムハマド・ユヌス氏のソーシャルビジネス論。副題に「世界の課題を解決する新たな経済システム」。最近は「ソーシャル・アントレプレナー社会起業家)」などといった言葉もよく聞くが、ソーシャルビジネスとはいかなるものかに関心を持って、読んでみた。NPOとも違い、会社組織でありながら、利益ではなく、社会的公益性を追求する組織を提唱する。社会的に役立つのならば、大企業とパートナーを組むことにも抵抗感がない。理想主義と現実主義の融合がなかなか面白い。こうした会社像もあるのだと刺激になった。
 で、印象に残ったところを引用すると...
 まず「ソーシャルビジネス」の定義ともいえるところ...

 ソーシャル・ビジネスにはふたつの種類がある。ひとつ目は、社会問題の解決に専念する「損失なし、配当なし」の会社で、起業を所有する投資家は、上がった利益をすべてビジネスの拡大や改善に再投資する。(略)ふたつ目は、貧しい人が所有する営利会社だ。これは直接所有される場合もあるし、特定の社会的目標に専念するトラスト(信託機関)を通じて所有される場合もある。(略)貧しい人々に利益が分配されれば貧困が緩和されるため、この種のビジネスは当然ながら社会問題の解決に役立つ。

 なるほど。
 次に、ユヌス氏とグラミン・クリエイティブ・ラボの創設者であるハンス・ライツ氏が考えた「ソーシャル・ビジネスの7原則」...

(1)経営目的は、利潤の最大化ではなく、人々や社会を脅かす貧困、教育、健康、情報アクセス、環境といった問題を解決することである。
(2)財務的・経済的な持続可能性を実現する。
(3)投資家は投資額のみを回収できる。投資の元本を超える配当は行われない。
(4)投資額を返済して残る利益は、会社の拡大や改善のために留保される。
(5)環境に配慮する。
(6)従業員に市場賃金と標準以上の労働条件を提供する。
(7)楽しむ!

 なるほどねえ。資本主義の下でも従来の株式会社とは異なる。
 次に、ソーシャル・ビジネスが効果を発揮しそうな社会的な目標...

 生産性や市場アクセスを改善する。
 雇用を創出する。
 消費者を支援する。
 起業家精神を引き出す。
 生活に安定をもたらす。

 パートナーとして検討すべき組織。

 ほかのソーシャル・ビジネス
 NGOや慈善団体
 投資家
 技術パートナー
 生産パートナー
 人材パートナー
 流通パートナー
 モニタリング・パートナー

 そして、ソーシャル・ビジネスを計画するにあたって検討しておくこと...

 社会的目標(ソーシャル・ビジネスで誰を助けるか)
 社会的利益
 ビジネスで恩恵を受ける人がビジネスの計画や開発にどう参加するか
 ソーシャル・ビジネスの成果の測定方法
 半年後(1年後、3年後)に実現する社会的目標
 ソーシャル・ビジネスが成功した場合の普及・拡大方法
 提供する商品やサービスに付加できるそのほかの社会的利益

 L3C(低収益有限責任会社)という社会的目標を持つ低収益・営利企業の話では、ジャーナリズムの未来についても触れている。

 今後、L3Cがどう発展していくかは楽しみだ。L3Cの導入が盛んに議論されている分野といえば、ジャーナリズムだ。インターネットの台頭により、地方紙は広告料を奪われ、財務的な苦難に直面している。そのため、ジャーナリズムの世界には、新しい資金調達方法を利用して、調査報道や市民教育専門の組織を設立しようとしている記者たちもいる。その中には、伝統的なジャーナリズムを生かしつづける方法として、財団の支援を受けるL3Cに期待を寄せる人もいるのだ。
 このような取り組みのひとつとして、2010年1月1日時点のイリノイ州の法律のもとで法人化されたのが「シカゴ・ニュース・コーポラティブ」だ。この協同組合は、「プロの編集する高品質なニュースや論評をウェブ、紙面、放送でシカゴ地域に配信」しており、ジェームズ・オシェイというベテラン・ジャーナリストが編集に携わっている。シカゴの公共WWTWと提携して運営されているこの会社は、ジョン・D&キャサリン・T・マッカーサー財団から助成を受けており、そのほかの財団からもさらなる投資を募っている。

 ソーシャル・ビジネスは貧困層の救済というだけでなく、いろいろな社会的利益のために機能する仕組みなのだな。産業構造転換のなかで変革を迫られているメディアも例外ではないか。
 ともあれ、ソーシャル・ビジネスを考えるきっかけを与えてくれる本。読んでいると、利益追求型企業の問題も目立つ昨今、ソーシャル・ビジネスには、いろいろな可能性があるように思えてくる。
 で、日本にも九州大学にグラミン・テクノロジー・ラボがあるのだな。ネットで検索すると、九州大学はこれ以外にも、ソーシャル・ビジネス関係で、ユヌス氏と活動している様子。
一般財団法人グラミン・テクノロジー・ラボ(GTL)設立 || グラミン・クリエイティブ・ラボ@九州大学 => http://bit.ly/O4xuEb
★グラミン クリエイティブ ラボ => http://bit.ly/PfQunh
★ユヌス&椎木ソーシャル・ビジネス研究センター(SBRC) => http://bit.ly/O4x8xw