上杉隆『官邸崩壊』

官邸崩壊 (幻冬舎文庫)

官邸崩壊 (幻冬舎文庫)

官邸崩壊 安倍政権迷走の一年 自民党・安倍政権の崩壊を描いた上杉隆氏のノンフィクションの文庫版。2007年9月に安倍首相が政権を投げ出す直前の同年8月に出版された単行本のときの副題は「安倍政権迷走の1年」。で、2011年に文庫化されたときの副題は「日本政治混迷の謎」。2007年に出版された時は、安倍首相が政権を投げ出し、その後も毎年、官邸崩壊が繰り返され、民主党政権交代してからも続くとは想像もしていなかったのだなあ。文庫版には「そして官邸崩壊は繰り返される」という文庫版用のまえがきが付く。あとは2007年の単行本版のままだという。
 しかし、この本を読むと、改めて安倍政権の迷走ぶりがわかる。政権発足当初、小泉政権時代に悪化した日中・日韓関係の改善では成果をあげるものの、あとは、もう目を覆うばかりの惨状。人を選び、人を使うところで失敗を繰り返すのだが、いまは本人はどう思っているのだろう。政権当時と同じように、自分は正しいことをしているけど、周りが悪いと思っているのだろうか。また、お友達も当時と変わらないのか、それとも、大人の関係になっているのだろうか。安倍首相を敬愛しすぎて、暴走して、かえって安倍首相の足を引っ張ることになる井上義行・首相秘書官とはいま、どんな関係にあるのだろう。井上氏はみんなの党にいるようだが...。
 で、目次を内容を見ると...

そして官邸崩壊は繰り返されるーー文庫版まえがき
序 章 錯誤
第1章 華麗なる船出
第2章 瓦解の萌芽
第3章 破綻する側近政治
第4章 自縄自縛
第5章 ドミノ倒し
終 章 呪縛
最終章 散花

 この本は首相退陣前の本なので、当然、辞めた理由はできてこないが、読んでいると、この本が出版された時点で、安倍政権は終わっていたことがわかる。病気のためにやめたというよりも、すでに政権が崩壊していた。そのあたりをいま、どう考えているのか。もし、次の首相になるならば、知りたいところだなあ。本来はメディアの役割なんだろうけど。
 ともあれ、安倍総裁と自民党だけでなく、民主党も含めて、この本で描かれている官邸崩壊をどう考えているのだろう。この本の教訓は生きているのだろうか。毎年、首相が変わっていること自体、あまり教訓となっていないようだが。この本では否定されている(と思える)小泉政権のほうが権力を知り、やりたいこともはっきりしていた感じがする。小泉首相を否定するにしても、であるならば、その後、続く官邸崩壊の連鎖を分析しないことには、このメルトダウンは止まらない感じがする。
首相の蹉跌―ポスト小泉 権力の黄昏 安倍政権の崩壊過程の分析としては、上杉氏のこの本と、清水真人氏の『首相の蹉跌』を読んだが、上杉氏の『官邸崩壊』は、ディテールに富み、臨場感にあふれるルポルタージュで、とにかく面白い。一方、清水氏の『首相の蹉跌』は日本における政治権力の変遷、小選挙区制が巻き起こした政党政治の構造変化、政策・政局両面から相次ぐ官邸崩壊に踏み込んでいて幅と深みがある。例えば、小泉政権を支えた人物を語るとき、上杉氏は飯島秘書官であり、清水氏は、表の竹中平蔵、裏の飯島勲という形で、政策と政治の両側からアプローチする。週刊誌と新聞の違いかもしれない。ただ、どちらを読んでも、安倍政権が破綻に至る迷走ぶりは「失敗の本質」のケーススタディの素材を提供してくれる。
 で、いくつか、印象に残ったところをメモすると...
 安倍政権の発足当初、政策決定に大きな影響を与えると思われた「5人組」といわれた人たちは、
伊藤哲夫氏(日本政策研究センター代表)、中西輝政京都大学名誉教授)、西岡力東京基督教大学教授)、島田洋一福井県立大学教授)、八木秀次高崎経済大学教授)だったという。いずれも保守派の論客。このあたりは今も変わらないのだろうか。
 安倍政権では、数々の大臣スキャンダルが起きるが、対応は後手後手だった。そんな官邸について...

 危機意識の欠如、それはこの政権を覆う共通の空気であった。損失を最小限に食い止めるため、即座に手を打つという戦略が採用されることはまずない。誰もが早々と自分とは無関係であると結論付け、第三者の余裕で事の成り行きを見守る。成功に対しては異常なまでに執着するが、失敗が迫り来るとそろって目を瞑る。そして危機が直前まで来た時になって、ようやくその重要性に気付くのだ。もちろんその時には手遅れである。

 これは自民、民主を問わず、その後の政権も変わらないなあ。
 続いて、メディアとの関係...

 安倍政権では、当初から一部の記者が安倍側近と手を結んで、政権プランを決めているという話しが流れていた。とりわけ、フジテレビ、産経新聞夕刊フジフジサンケイグループは安倍政権の「特務機関」とさえ言われた。安倍政権は間違いなく彼らで動いている部分があると、政治記者の多くが感じる。中でも、産経新聞の阿比留瑠比と石橋文登の両記者の食い込みは群を抜いていた。

 このふたりの記者に加えて、NHKの岩田明子記者が当時の安倍首相に近い記者だったというが、名指しで書いてしまうところがすごいなあ。いまはどうなっているのだろう。
 ともあれ、現在の官邸迷走の源は安倍政権に始まる感じがする。小泉政権と何が違ったのか。小泉政権を否定するとして、では、どのような政治権力構造を作るのか。安倍政権に始まる官邸崩壊に対する検証なしには前へ進めないんだろうなあ。で、自民党総裁に復帰し、次は首相という安倍氏は今、当時をどう考え、どのようにPDCAサイクルを回そうとしているのだろう。Cなしで、PDPDしてしまおうとしているんだろうか。
PDCAサイクル - Wikipedia => http://bit.ly/SEpNwz