佐木隆三『なぜ家族は殺し合ったのか』

 尼崎の連続遺体遺棄事件(大量殺人事件?)に似ているといわれる北九州の家族監禁殺人事件のルポルタージュ。どんな事件だったのかと思って読んだのだが、家族同士を殺し合わせ、日常的に電気ショックなどの拷問を繰り返すという、あまりにも凄惨な話で、かなり飛ばし読みしてしまった。裁判記録などをもとに書いているので、描写が生々しく、読むのがつらい。
 しかし、最後まで目を通しても、タイトルの「なぜ家族は殺し合ったのか」はよくわからなかった。男がマインドコントロールしたとはいっても、なぜ、みんなが支配されてしまったのか。主犯は詐欺師なのだが、その語り口は、もうすぐベストセラーを書く小説家であったり、大儲け確実なソフト開発であったり、トンデモ話ばかりで、いくら迫真の演技力の人といっても、この程度の話を信じて、金を出すものなのだろうか、と思ってしまう。強引に男と女の関係を作り、女を支配するという話にしても、そこまでは結婚詐欺師のような話で理解できるが、異常な暴力で追い込むというのは、この男の育つ過程で何かがあったのだろうか。
 そして、なぜ被害者たちは警察に駆け込まないのか(最後には監禁状態から抜け出した少女が警察に駆け込み、事件は発覚するのだが...)。この事件の以前から商売でも、主犯の男は暴力で人を支配しようとしていたが、暴力を振るわれた者は逃げるのが精いっぱいで、警察沙汰にはなっていない。この人物が生きていた世界は、警察が信用されていない社会だったのだろうか。主犯格には暴力団との交友を脅しに使っていたというが、治外法権と思わせる何かがあったのだろうか。
 ともかく読んでいると、ますます謎が深まってくる。この事件に出てくるような嘘が通用してしまう社会というのは、ある種、閉鎖された社会だったのだろうか。閉ざされているから、外の世界では、主犯格の男が語るような話があると思ってしまうのだろうか。書かれていない事件の社会的背景があるのだろうか。そこには尼崎の事件と通用するものがあるのか。読んでいて、かえって謎が深まる感じがした。わからん。そして凄惨すぎる。日本の社会のどこかが狂っていて、今でもどこかで、北九州や尼崎のような事件が起きているという可能性もあるのだろうか。怖いなあ。