毎日新聞「靖国」取材班『靖国戦後秘史−−A級戦犯を合祀した男』
- 作者: 毎日新聞「靖国」取材班
- 出版社/メーカー: 毎日新聞社
- 発売日: 2007/08/01
- メディア: 単行本
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私は 或る時に、A級が合祀され その上 松岡、白取までもが、
筑波は慎重に対処してくれたと聞いたが
松平の子の今の宮司がどう考えたのか 易々と
松平は 平和に強い考があったと思うのに 親の心子知らずと思っている
だから私はあれ以来参拝していない
「筑波」は1946年から78年まで靖国神社の宮司を務めた筑波藤麿氏、「松平」はその後任で78年から92年まで宮司だった松平永芳氏。筑波宮司はA旧戦犯の合祀を先送りする一方、靖国神社の本殿に祀ることができない国内・国外の戦争犠牲者のために鎮霊社を設けるなど、戦後の靖国神社の新しい形を模索した。これに対して、松平宮司は戦後の日本のあり方に否定的で、よく言えば、原点回帰、批判的にいうと、戦前への復古主義を進める。結果、A級戦犯が合祀され、中曽根首相が終戦記念日に公式参拝、そして戦争博物館ともいえる遊就館が再開し、中国や韓国がいきり立つ現在の靖国問題へとつながっていく。
この本は、この対照的な二人の宮司を、それぞれの出自までさかのぼりながら、靖国神社の戦後史を描く。筑波は皇族でありながら、軍人の道を選ばなかったリベラルであり、松平は海軍兵学校を目指しながら、その道に進めず、さらに義父をB級戦犯として処刑された過去を持つ。ふたりの人生が靖国神社のあり方にも反映しているように見える。個人の理想、信念、野心が靖国神社の形を変えていく。さらに、そこに組織の利害、個人の利害も絡み合う。厚生省で旧軍人が主体となった援護局が陰に陽に影響を与え、靖国神社内部でも人事やら人間関係やらの軋轢が、事態を動かしていく。個人の信念や思惑のために靖国神社が政治的に利用されてきたようにも見える。いつの間にか、天皇陛下も、遺族も、そして鎮魂されるべき死者たちも忘れ去られ、靖国神社を取り巻く人々の煩悩に振り回されていく。そんな日本の悲劇として読める本だった。
読後に残るのは、自分たちの国、故郷、同胞のために戦い、倒れていった人たちを純粋に追悼し、鎮魂する場を、どのようにしたら、持てるのだろうかという思い。防衛省がつくったメモリアルゾーンがそれに代わる存在となるのだろうか。死者を政治的に利用することなく、純粋に鎮魂する場はどこがいいのだろう。そんなことを考えさせられる本だった。
最後に目次で、内容を見ると...
序 章 2006年 騒々しい夏
第1部 A級戦犯を合祀した宮司
第1章 皇国護持の三代目
第2章 宮司選出の舞台裏
第3章 改革の遺産と誤算
第2部 A級戦犯を合祀しなかった宮司
第4章 白い共産主義者
第5章 世界平和を目指した靖国
第3部 戦後の慰霊の行方
第6章 揺らいだ合祀基準
第7章 千鳥ヶ淵の攻防
第8章 「戦後」からどこへ
靖国神社はあまりにも政治的な場になってしまった。それは偶然ではなく、そうしようという意図が働いていた。この本では、そう描かれている。純粋に鎮魂・慰霊の場を持つことが難しくなってしまうのは、悲しい話だ。その意味で、読んでいて、つらくなる本でもあった。