池内紀『消えた国 追われた人々』

 コペルニクス、カント、ホフマンが生きた、いまは地図上から消えた東プロシアの物語。筆者はギュンター・グラスの『蟹の横歩き』の翻訳者でもあり、グラスが取り上げたグストロフ号事件も再三、取り上げられている。ソ連軍が迫る中、海路、ドイツへの脱出を試みたドイツ難民を載せた豪華客船がソ連潜水艦に撃沈された事件。戦争末期から戦後にかけて、東方の地にいたドイツ人は追われて、難民と化し、なかにはドイツ人虐殺などの悲劇もあったという話はチェコスロバキアの事例としてニューズウィークで以前、読んだことがあったが、東プロシアもそうした悲劇の地のひとつであったらしい。東プロシアの場合、民族が共存していた歴史を持つが、それが周辺の国家やら、大国の政治に翻弄されていく。そうした歴史を現地を訪ねながら東プロシア紀行として紹介していく。ドイツ人の東方ノスタルジアについても紹介されていて、興味深かった。
 ちなみに、ドイツ難民は、こんな具合だったという。

 第二次世界大戦の終了とともに、それぞれの地からドイツ人はいっせいに追い出された。その数は、シレジア一体から320万、ズデーテン地方から290万人、北西ポーランド一円から300万人、東プロシアから200万、その他を合わせて約1200万人と推定されている。土地、建物、財産すべてを残して出ていった。出ていかなくてはならなかった。

 かなりの規模だなあ。第二次大戦後の日本の引揚者は、軍・民間合わせて600万人ぐらいらしいから、その規模の大きさがわかる。ドイツも、いろいろな思いを飲み込んで欧州の中で生きているのだなあ。というか、欧州はそうした様々な民族の思いを飲み込んで共存しようとしているのだなあ。