上原善広『日本の路地を旅する』

日本の路地を旅する

日本の路地を旅する

 ここでいう「路地」は「被差別部落」のこと。筆者が出身地の大阪から全国の路地を回ったルポ。プロローグの和歌山県新宮は、中上健次の故郷であり、中上が被差別部落のことを路地と呼んだ。それぞれの路地の歴史、文化、風土、そして差別の構造が語られていく。全国の路地と路地がつながっていたりする一方で、路地に住む人々のなかでも職業によって差別があったり、初めて知ることも多かった(学習が足りないといわれてしまうかもしれないが)。日常的に差別は見えなくなっても、結婚差別は、いまだに根強いものがあるという。というか、結婚などのときに、日頃は隠れている差別意識が顔を出すのかもしれない。そして、何か事件が起きたりすると、路地のことが口の端にのぼり、差別意識が顕在化する。まだまだ、どこか意識の底に寝ているところがあるのかもしれない。これは、路地に限らず、外国人に対しても同様だろう。特に白人以外の外国人に対して。
 この本、自分のルーツである路地を歩く旅であると同時に、犯罪者になってしまった兄を考える内面の旅にもなっている。路地を通じて日本を、人間を考える本になっていた。
 目次で内容を見ると...

プロローグ−−和歌山県新宮
第1章 ルーツ−−大阪
第2章 最北の路地−−青森、秋田
第3章 地霊−−東京、滋賀
第4章 時代−−山口、岐阜
第5章 温泉めぐり−−大分、長野
第6章 島々の忘れられた路地−−佐渡対馬
第7章 孤独−−鳥取、群馬
第8章 若者たち−−長崎、熊本
終 章 血縁−−沖縄
エピローグ−−旅の途中で

 どこの路地にも、それぞれ歴史があり、文化がある。日本の芸能史、産業史にも連なってくる。歴史、文化の厚み、差別と苦悩、さまざまな面で読み応えがある。沖縄が「血縁」とあるのは、沖縄を訪ねたのは、著者が兄に再会するためでもあったから。家族を、父を、兄を、自分自身を知るために、全国を歩き続けているようにも見えてくる。
 読んだのはKindle版。文庫本はこちら...

日本の路地を旅する (文春文庫)

日本の路地を旅する (文春文庫)