網野善彦『日本社会と天皇制』(岩波ブックレット)

日本社会と天皇制 (岩波ブックレット)

日本社会と天皇制 (岩波ブックレット)

 夏の「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」以来、日本と天皇の歴史が気になって、図書館を歩いていたら、発見した本。ブクレットなので薄くて手軽。網野善彦氏は「もとより、私は天皇および天皇制にたいしては徹底的に批判的な立場に立つものでありますが」というが、中身は日本社会の歴史であり、歴史について網野氏は謙虚で誠実だから、この本の中身は立場が違う者が読んでも面白い。天皇制だけでなく、日本社会について考えるヒントにある。「いったいなぜこういう珍妙ともいうべき事態が現在までつづいているのか」と網野氏は慨嘆するが、こうした事態がつづいていること自体がすごいともいえるし、日本社会にとって意味があるし、役割があるように思えてくる。
 で、目次で内容を見ると...

I  天皇の存在を無視しては日本社会に論ずることはできない
II  日本社会についての常識を根底から問い直す
 1.”島国のなかの単一民族” か?
 2.”稲作のみが生業の中心” か?
 2.”単一国家” だったのか?
III 南北朝の動乱天皇
 1.”遊女” の地位は引くなかった
 2.”非人” は畏れ敬われていた
 3.ピンチを迎えた天皇
 4.後醍醐天皇と文観
 5.”異様な天皇制”
IV 現代とのかかわり

「異形の王権」といわれる後醍醐天皇の時代、網野善彦がこだわっているのは知っていたが、日本社会を考える上でも、天皇制を考える上でも、ここが面白い時代で、ポイントだったのかもしれない。この本では南北朝という天皇制であり、日本システムの革命期のエッセンスが紹介されているだけだが、それでも知的な刺激に満ちている。なぜ権力(政権)は移り変わっても、天皇制は存続してきたのか。筆者の立場に関係なく、天皇という日本社会のシステムについて考える端緒になる本。しかし、網野氏のイメージの中にある天皇は「昭和天皇」なのだろうが、平成も26年を経た今、リベラリズムや平和主義の最後の拠りどころとして天皇が意識される時代が来るとは想像もできなかっただろうなあ。そして、今の状況を見ると、日本社会における天皇制について、もっと別な見方が出てくるのかもしれないなあ。網野氏が批判するのが「明治以降の東京における天皇制」なのか、それ以前から連綿と続く奈良、京都の頃からの「天皇制」なのか、いま生きていたら、何を論じるのだろう。