ハンナ・アーレント「真実と政治」を読むーー嘘の政治は栄えても最後は現実が復讐する

 昔々、古本屋さんで買った本をなぜか思い出して、ページをめくっていると、ある人の文章が目に止まった。

非政治的人間の政治責任 (1972年)

非政治的人間の政治責任 (1972年)

 

 本の名は『非政治的人間の政治責任』 ーー1964年、ドイツの知識人10人の連続講演から生まれた時事評論集。この本に収録されていたハンナ・アーレントの「真実と政治」が気になり、を読んでみた。

 政治における「嘘」の問題を語っている。アメリカに象徴されるように世界中で政治的な党派性を持つフェイクニュースが猛威を振るい、日本を見ても、政治家が嘘に無頓着になった様子を見ていると、半世紀も前のアーレントの言葉がいまも(いまだからなおさら?)心に響く。このような政治状況になってしまった現代と、この先の未来について考えさせられる。
 いくつか、印象に残ったところを抜き書きすると…

 嘘が公衆を呪縛にかけることに本当に成功した場合には、それは行動の真の能力を代償として起こったことなのです。つまり、世界を変え、より良くするために事実に即して方向を見定める代りに、この場合には、世界をその事実性において抹殺しようとするのです。

  ちょっとややこしい訳だが、要するに現実を改善するのではなく、嘘の事実で現実の世界を否定する社会。粉飾された現実から行動は生まれないし、事態がよくなることもない。統計を偽装したら、何が現実かわからなくなってくるし、より良い政策が出てくるはずもない。そんな話。理論が現実になってしまっている感じがする。

 歴史認識についても...

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デンゼル・ワシントンの「イコライザー」、見ました。

 遅ればせながら、見ました。

 デンゼル・ワシントン主演のアクション映画。今はホームセンターの店員となっている引退したCIAの工作員が、ダイナーの常連で顔見知りの女性に対する暴力事件をきっかけに、街を支配するロシア・マフィアの横暴に切れて、ひとりで組織を抹殺していく。カネは動かないものの、必殺仕置き人といった感じの映画。いつの時代も勧善懲悪を人々は求めているのだな。現実は無理でも、スクリーンの上では、善は悪をボコボコにして欲しいと。そして、現代で悪役というと、やっぱりロシア・マフィアなんだなあ。暴力性ではピカイチのイメージがあるのかも。

 ちなみに、被害者の女性を演じていたのは、クロエ・グレース・モレッツ。モレッツといえば、「キック・アス」のヒットガールだから、自分で解決しちゃいそうだが、今回は、デンゼル・ワシントンに助けてもらっていました。 

プラスチック廃棄物の輸出大国というと、トップは...、日本...

 マレーシアが海外から違法に持ち込まれたプラスチック廃棄物を送り返すとか。

www3.nhk.or.jp

 環境問題の大テーマとなってきたプラスチック廃棄物、どこの国が外国に送り出しているのかと思ったら、イアン・ブレマーのツイッターに輸出国ランキングが...

 日本がワーストかあ...。アメリカよりも多いのかあ。意外だったのは、3位のドイツ。環境問題には厳しいイメージがあったが、プラスチック廃棄物は、よその家の庭に捨てていたわけか。

 プラスチック廃棄物というと、こんな記事があったが...

安倍首相、海洋プラごみ削減へ G20で「リーダーシップ発揮」 - 産経ニュース

 海洋プラスチックごみ対策は重要だが、よその国にプラスチック廃棄物を送りつけることもやめるようにしないと、リーダーシップを発揮するにも説得力がないような気が...。 

プラスチック・フリー生活: 今すぐできる小さな革命;いますぐデキルチイサナカクメイ

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ムラー報告書で描かれたホワイトハウスで思い出すのは、この本ーーボブ・ウッドワードの『恐怖の男』

 ロシア疑惑を操作していたムラー特別検察官の報告書。トランプ大統領はクロとはならなかったが、先日、公開された全文を読むと、かなりグレーであることがわかる。特に目を引くのは司法妨害に関する部分...

 報告書によると、トランプ氏は司法妨害をしようと側近たちに指示を出していたが、側近たちはトランプ氏の指示を実行せず、司法妨害が起きるのを未然に食い止めていたことがわかった。それについて、報告書にはこう記されている。

「捜査に影響を与えようとする大統領の取り組みはたいてい成功しなかった。大統領の側近たちが指示を実行したり、リクエストに応じたりするのを拒否したからだ」

ロシア疑惑 公開されたムラー報告書の中身 「大統領としては終わりだ」とトランプ氏(飯塚真紀子) - 個人 - Yahoo!ニュース

  要するに、トランプはムラー特別検察官の解任などロシア疑惑捜査を妨害しようとしたが、命じられた法律顧問が辞任したり、実行に移されることはなかったという。側近たちが実行しなかったから、法的には問題にはならないのかもしれないが、大統領として問題はないのか。そこは議会の仕事なのだろうなあ。

 で、この話を読んでいて、この本を思い出した。

FEAR 恐怖の男 トランプ政権の真実

FEAR 恐怖の男 トランプ政権の真実

 

  ウォーターゲート事件をスクープした調査報道記者、ボブ・ウッドワードによるトランプ政権の内幕本。この本、トランプの無茶苦茶な指示に抵抗し、疲れ果て、政権を去っていくスタッフたちの物語が大半を占める。ムラー報告書を見ていると、ウッドワードがレポートした政権の姿は正しかったのだと改めて思う。さすがの取材力。

 と同時に、スタッフたちが命令を実行しなかったことで大統領が違法行為を問われなかったり、国益を損なわずに済んだりしていることで安堵していていいのかどうか。国民が選んだ大統領の命令にスタッフが従わないというホワイトハウスの現状というのは、どうなんだろう。異常な時代に生きているのだなあ。改めて、そう思う。

yabudk.hatenablog.com 

エーコ、カリエール『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』を読む。電子は儚く、紙は末永く

 週末、ネットを見ていたら、こんな記事が出ていた。

マイクロソフトは2日、マイクロソフト・ストアでの電子書籍の販売を中止し、電子書籍事業を閉鎖すると発表した。つまり、このサービスを通じて買った電子書籍は今後、読めなくなってしまう。

マイクロソフトが電子書籍事業を廃止、本は消滅……デジタル時代の「所有」とは? - BBCニュース

 マイクロソフト電子書籍事業をとりやめるので、このサービスを通じて買った本が読めなくなるという話。すぐに、この本を思い出した。

もうすぐ絶滅するという紙の書物について

もうすぐ絶滅するという紙の書物について

 

 ジャン=フィリップ・ド・トナックの司会で、ウンベルト・エーコジャン=クロード・カリエールが対談した、本に関する本。エーコはご存知、『薔薇の名前』で知られる小説家にして記号学者。カリエールは知らなかったのだが、「昼顔」「小間使いの日記」「ブルジョアジーの密かな楽しみ」などのルイス・ブニュエル映画のシナリオを手がけて人で、『珍説愚説辞典』の著者でもある。ふたりとも稀代の古書収集家であると同時に博学多彩な人。

 インターネットが成長し、電子書籍が話題になり始めた2010年(Kindle前夜かな)の本なのだが、そのなかに、こんな話が出てくる。

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ジム・ロジャーズ『お金の流れで読む 日本と世界の未来』

 ジム・ロジャーズのアベノミクスへの評価を知りたくて、読んでみた。

お金の流れで読む 日本と世界の未来 世界的投資家は予見する (PHP新書)

お金の流れで読む 日本と世界の未来 世界的投資家は予見する (PHP新書)

 

 まず、目次で内容を見ると...

序 章 風はアジアから吹いている

      ーーただし、その風には「強弱」がある

第1章 大いなる可能性を秘めた日本

第2章 朝鮮半島はこれから「世界で最も刺激的な場所」になる

第3章 中国ーー世界の覇権国に最も近い国

第4章 アジアを取り囲む大国たち

      ーーアメリカ・ロシア・インド

第5章 大変化の波に乗り遅れるな

第6章 未来のお金と経済の形

   風はアジアに吹いているというが、日本ではない風情。第1章の「大いなる可能性を秘めた日本」というタイトルだけをみると、日本のことをほめているようだが、中身を見ると「日本の未来を世界史から照射する/閉じた国は亡び、開いた国は栄えるーー歴史の必然」、「日本の好景気はうわべだけ/じきにこの国を蝕む重い病とは」「移民を受け入れる国は栄え、拒む国は亡びる/いかに社会への影響をコントロールするかを考えよ」といった具合。

 アベノミクスについては「いつか「安倍が日本を駄目にした」と振り返る日が来る」と厳しい。アベノミクスの最大の成果といえば、株高だが...

いまの日本の状態は、「紙幣を刷れば株価が上がる」という市場の原理に則っているだけだ。金融緩和が続く限りこの好景気も続くだろうが、根本的な解決策にならないことは、先ほどのアメリカ、イギリス、ドイツの例を見たらわかる。紙幣を刷りまくっても駄目なのだ。アベノミクスが成功することはない。

 あらあら、断言されちゃった。だから「私がもし10歳の日本人なら、ただちに日本を去るだろう」となる。金融政策と財政政策だけでは限界があるといわれながら、政権発足から6年を過ぎても、いまだに成長戦略は見えてこないのだから、ジム・ロジャーズに見限られても仕方がないか。少子高齢化の問題にしても、この6年余りで、どんな手が打たれたか...。日銀だけでマーケットをどこまで支えきれるのか。投資家の心理は揺れ動き、最近のマーケットは神経質になっているのかな。4月末からの10連休もあるしなあ...。怖くて買えないよなあ...。

 一方、興味深いのは、朝鮮半島の潜在成長力に着目していること。北には資源があり、南には製造業がある、ということは以前からいわれていたが、南北が統一されると、少子化に悩む韓国が北朝鮮の若年労働人口出生率回復の面でも助けられるとみている。そういう見方もあるのか、という感じ。国の成長力を考えるとき、人口動態はポイントになるのだなあ。

 資本主義は絶えず成長のフロンティアを探し続けるといわれるが、国際社会から排除されていた北朝鮮は資本主義にとっての最後の未開拓地とみることもできるのかもしれない。ハノイで開かれた米朝首脳会談で、北朝鮮との交渉はひとまず暗礁に乗り上げた雰囲気で、まだまだリスクはあるが、ハノイ会談のときも欧米の経済界のなかには北朝鮮でのビジネスチャンスに前のめりになっている雰囲気があった。どうして、そんな動きが出てくるのかは、このジム・ロジャーズの本を読むと、よくわかる。

 独裁であるかどうか、人権問題はどうかといったことは、ジム・ロジャーズにとっては関心の枠外。金の流れとは関係ないといってしまえば、そんなものなのかもしれないが、身も蓋もないというか、ちょっと切ない感じもする。

 ともあれ、ちょっと違うんじゃないの、とツッコミを入れたくなるところもあるが、こんな見方もあるのかと、今までとはちょっと違う視点を提供してくれるところは刺激的。そこがジム・ロジャーズの魅力でもある。で、当たるも八卦、当たらぬも八卦。5年後、10年後には答えがわかる。

「ROMA/ローマ」ーー圧倒的な映像の力。そして、映画の中に登場した映画

 先日発表された2018年のアカデミー賞で、外国語映画賞、監督賞、撮影賞を獲得した映画。

www.netflix.com

 アルフォンソ・キュアロン監督の「ROMA/ローマ」。撮影賞もキュアロン。NETFLIXの映画であることも大きな話題となった。この映画、思っていた以上のすごい映画だった。モノクロだし、主人公は地味な家政婦だし、いい映画なんだろうが、淡々としたアート系で眠くなるのではないかと思っていたのだが、そんなことはなかった。冒頭から圧倒的な映像の魅力に引き込まれる。そして、その力は最後まで衰えない。久しぶりに映画の力を感じる映画だった。これはすごいものを見てしまった。

 アカデミー外国語映画賞にノミネートされた「万引き家族」、今回は相手が悪かった。作品賞と両方とっていてもおかしくない。映像芸術のクオリティという点から言えば、もはや劇場用映画もネット映画も垣根はない。テレビは、はるか彼方に置き去りにされた感じ。そうしたことも感じさせる映画だった。

 キュアロン監督はNETFLIXの「監督からのメッセージ」で、この映画はきわめてプライベートな映画(半自伝的な映画)だが、観客のみなさんの思い出と共有できるものがあるのではないか、というようなことを話していて、何を言っているのか、よくわからなかったのだが、映画を見ると、その意味がわかる。映像のなかに、どこか自分が見てきた風景が蘇ってくるのだ。例えば...

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