井上ひさし作「藪原検校」(こまつ座&世田谷パブリックシアター)

 やはり舞台は面白い。シンプルな舞台装置に、これまたシンプルなギターの伴奏、それなのに目の前には、江戸の世界が広がる。井上ひさしの演劇を見るのは初めてだったのだが、お得意の言葉遊びもありながら、可笑しくて、楽しくて、哀しくて、そして日本を、異質な者を排除・差別する社会を考えさせられる。深いなあ。上質のエンターテインメントであると同時に、考えさせる内容になっていた。井上ひさしに対しては少々、食わず嫌い的なところがあったのだが、こうして作品を見ると、やはり、すごい。1973年初演というから、40年近く前の作品だが、テーマは現代に通じ、いささかも古びていない。普遍的な作品、もはやクラシックなのだなあ。
 そして、この舞台の場合、何よりも役者がすごかった。藪原検校役の野村萬斎は前半の見せ場である早物語が圧巻。ムーンウォークはあるは、森進一の物真似はあるは、サービス精神全開。ともあれ、発声から、その立ち姿までお見事。テレビで見る野村萬斎は何となくちょっとだったのだが、舞台を見て、その凄さがかわる。語りの浅野和之もご苦労様と言いたくなるぐらい、出ずっぱりの熱演だったが、うまいなあ、と感心したのは小日向文世。口跡が良いし、姿も良いし、舞台で栄える人だなあ。他の劇も見たくなる。このほか、秋山菜津子熊谷真実はじめ、出ている役者さん、みんな良かった。千葉伸彦が奏するギターは、三味線のようにも聴こえ、ときに物悲しい。ギターひとつで、こんなに情感が表現できるのか、と思ってしまう。
 そんなこんなで久しぶりに舞台を堪能し、他の舞台も見に行きたくなる、そんな作品でした。
★『藪原検校(やぶはらけんぎょう)』 | 世田谷パブリックシアター => http://bit.ly/KJC6yw
★藪原検校 - Wikipedia => http://bit.ly/La1HXw

藪原検校 (新潮文庫 い-14-15)

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