石橋毅史『まっ直ぐに本を売る』を読む

まっ直ぐに本を売る―ラディカルな出版「直取引」の方法

まっ直ぐに本を売る―ラディカルな出版「直取引」の方法

 副題に「ラディカルな出版「直取引」の方法」。まえがきに、こうある。

 いつか小さな出版社を立ち上げようと考えている人。
 すでに小さな出版社を興す準備をしている人。
 これらを、漠然と思い描いている人。
 本書は、そうした人たちに向けて書いたものである。

自分はそのいずれでもないのだが、出版というビジネスの仕組み、取次による委託販売が中心といわれる出版業界で書店との直取引というものがどんなものなのか、好奇心があって読んでみた。内容は、トランスビューという新興出版社が取り組んでいる直取引の紹介、分析が中心になっていて、コストなど具体的な数字も豊富で興味深かった。筆者自身が、出版社の営業から出版業界専門紙の記者に転じた人なので、リアルな現場感覚と取材に裏打ちされている。しかし、読者というか、本を待ってくれている人の手元に届けるということは、委託販売にしても、直取引にしても大変なことだな。本をつくるだけならば、簡単なのかもしれないが、それを売って、なおかつ利益をあげるということはやはりそう簡単ではない。これは、どの商売でも同じなのだろう。
 目次をみると...

第1章 本は、なぜ売れないのか
第2章「直取引」とは何か
第3章「トランスビュー方式」
第4章 実務とコスト
第5章 取引代行
第6章 注文出荷制
第7章 書店にとっての「直」

 第4章の目次からもわかるように、出版の実務に根ざした内容。個人的には知らないビジネスの世界を覗くことが好きなので、ディテールが書き込まれているものは面白い。
 この本を読んだのと同じころ、『”ひとり出版社" という働きかた』という本もぱらぱらと読んでみたのだが、こちらは「働きかた」とあるように、おなじ小さな出版社でも、その「ワーク・ライフ・スタイル」に焦点をあてた本で、自分のように、それって、どんなビジネスなの?という経営に関心がある者にとっては、ちょっとニーズが違った本だった。「小さな出版社」って自分らしい生きがいのある働き方ができるんじゃないの、と夢見る人には『ひとり出版社...』が向いていて、自分たちが作った本をきちんと読者の手元に届けるために、新たな流通形態にチャレンジしている「小さな出版社」って、どんなことをしているのだろうか、ということに関心がある人には、具体的な数字も多い『本を売る』が面白いんじゃないだろうか。

“ひとり出版社

“ひとり出版社"という働きかた