杉山正明:モンゴル帝国の興亡(下)世界経営の時代

モンゴル帝国の興亡〈下〉 (講談社現代新書)

モンゴル帝国の興亡〈下〉 (講談社現代新書)

 モンゴル帝国の絶頂から衰退まで。最後は内部抗争で消耗していく。特に、皇太后とか女系が、自らの系統のひ弱な男性たちを踊らせ、滅ぼす。しかし、モンゴル帝国は、チンギス・カン以上に、クビライの役割が大きかった。その組織運営も面白い。

 クビライ政権は、権力中枢はクビライ自身をはじめ、老齢の者が多かった。しかし実際の現場に立つ者は、(南宋攻撃の全軍司令官の)バヤンをはじめ、若い人がほとんどであった。クビライは、老練の知恵と青年の覇気を、好んで登用し、組み合わせた。

 クビライは50〜52歳で権力の座につき、80歳まで生きたという。チンギス・カンも、この時代には老人といっても良いような40代で覇権を得た。「老練の知恵と青年の覇気」、いまの会社経営にも通じるシステムだな。

 モンゴルは、異様なほど、軍事と政治、支配と統治だけに関心があった。宗教も技術も、思想も情報も、その意味で、統治の手段にすぎなかった。そしてクビライ以後は、経済支配が関心の焦点となる。

 確かに経済政策は先進的で、当時、一般的だった通行税を廃し、最終段階の売上税に一本化したという。この結果、遠距離貿易が増え、経済を振興した。それがモンゴル帝国の財務基盤をつくった。当時、人種、宗教を超えた軍事・行政組織といい、モンゴルは先端的だった。だからこそ、あれだけの帝国経営ができたということなのだろう。しかし、その栄光の組織も、自分の血族を支配層に据えようとする王族たちや既得権益を守ろうとする“官僚”たちの抗争の果てに劣化していく。モンゴル帝国も末期は陰謀と暗殺の時代になってしまう。
 歴史としても面白いし、組織論としても面白い。