ヒトラー 最期の12日間

ヒトラー ~最期の12日間~ スペシャル・エディション [DVD]

ヒトラー ~最期の12日間~ スペシャル・エディション [DVD]

 ヒトラーの最期を描く。ナチスが瓦解していく日々。歴史の本を読んでも、ベルリンの市街戦が激化する中で、幹部たちが酒を飲み、女性たちと乱痴気騒ぎをしていたといわれるが、映画として再現されると、狂気の世界になる。ヒトラーを普通だけど、普通でない人間。“同志”たちの裏切りに傷つく一方、国民をいかに苦しもうが、死のうが、自分たちを(選挙で)選んだのはお前たちだろう、と何の同情もしない。映画で見ると狂気だが、こうしたニヒリズムの空気は今も濃厚にある。だから、ナチズムは怖いんだなあ。極めて非人間的なのだが、その非人間性は人間の最も弱いところから生まれてくる。しかし、もう国家として壊滅して、敗北は時間の問題なのに、ベルリンの街で、反ナチ派を粛清して回っている。官僚主義の極致ともいえる。組織が自動回転し続け、止まらない。
 ところどころ、妙に生々しい場面がある。首相官邸地下壕はヒトラーの命令で禁煙なのだが、ヒトラーが自殺したと知らされると、みんなが一斉にタバコを取り出して吸い始める。本当にそうだったのだろうなあ。ゲッペルス家は一家心中したのだが、ゲッペルス夫人が子供たちを一人ひとり殺していく場面は怖い。狂信の果ての姿。ヒトラーを取り巻く将軍たちも、ある者は逃げ、ある者は自殺する。激怒するヒトラーの前で、だれも本当の戦況を報告できず、外で愚痴って飲んだくれているのだが…。ともあれ、ひとつの文明社会が滅びていく過程を描ききっている。
 ブルーノ・ガンツヒトラーは記録映画のイメージに似て、リアリティがある。ゲッペルスはちょっと違う感じがした。ラスト場面でヒトラーの秘書、トラウデル・ユンゲ本人が語る話が印象的。知らなかったからといって、言い訳にはならない。罪を背負って生きていくことになる。そこに気がつくことが大切なのだろうけど。