木村元彦「オシムの言葉」

 日本代表の監督になったイビツァ・オシムの伝記ルポ。さまざまな名語録を残す老監督という程度のイメージしかなかったのだが、この本を読むと、二番手チームを活性化し、優勝チームに創り上げる手腕の見事さと同時に、その人間性の裏側にユーゴスラビア内戦という体験があることを知る。というか、国家が分裂し、崩壊し、内戦へと突入していく凄絶な環境の下で代表監督を務めるというのは想像を絶する経験を持った人物。しかも、民族対立の中で、偏見や政治に惑わされることなく、民族を超えた実力主義でチームを創ろうとした人物。サッカーの監督としてというよりも、人物としての深みがある。希望的観測ではなく、現実を直視し、理想を目指す人。いまの日本代表にとって最適の監督かも知れない。この本を読む限りでは。