「
トラ・トラ・トラ!」の
黒澤明監督解任事件を日米の資料と取材によって検証する。新事実も含まれ、面白かった。ハリウッドの営利主義と黒澤監督の芸術家ぶりが衝突した上での解任劇かと思ったら、ことはそれほど単純ではない。日米のコーポレート・ガバナンスの差、京都の風土、黒澤的な芸術志向が既に衰退化していた映画産業が許容しきれなくなっていたこと。さらには、ATGや
アメリカン・ニュー・シネマが勃興していた時代、しかも
ベトナム戦争の時代に巨大米国資本とともに作る戦争映画巨編に芸術性を込めようとしていた“時代錯誤”。書かれてはいないが、
映画作家としてのピークアウトに対する焦りもあったのかもしれない。そうした、もろもろに
黒澤明の神経は消耗し、つぶれてしまったように思う。一方で、ハリウッド側は想像以上に
黒澤明という才能を愛し、尊重していた。だいたい、「
史上最大の作戦」の成功から生まれた企画だけに、それを黒澤が監督することには無理があったのかもしれない。ともあれ、労作で、一気に読んでしまった。