栗林忠道「栗林忠道 硫黄島からの手紙」

栗林忠道 硫黄島からの手紙

栗林忠道 硫黄島からの手紙

 クリント・イーストウッド監督の映画にもなった、硫黄島戦を指揮した栗林忠道中将が硫黄島から家族に送った手紙。最後の手紙は1945年2月3日。米軍の上陸は2月19日だから、わずか2週間前まで本土との間を航空機が飛んでいて、郵便があったこと自体も驚き。本土からの手紙も届いていたみたいだし、非日常に日常が生きている不思議さがある。栗林の手紙は、自分の戦死後を思い、家族を気遣う言葉ばかり。恐るべき平常心とも言えるし、本当に勇気のある人というのは、こういうものなのかもしれない。だいたい、勇ましいことを言う人は肝心の時には頼りにならないことが多いから。硫黄島のように、最後の一兵まで戦い抜いた島はなかった。このリーダーシップは、この平常心と普通の人の感覚が生んだものなのだろうか。「散るぞ悲しき」と、辞世の句を詠んだ将軍が最も勇猛だったというのは、確かに、クリント・イーストウッドならずとも魅了されるものがある。しかし、手紙そのものはどこまでも日常。凄惨な結末を歴史として知っているからこそ、言葉が心に響いてくるんだろう。自分の死はもちろん、日本の敗戦さえ確信しているのだから。しかし、ここまで赤裸々に書いても検閲されなかったのだろうか。将官だから特別扱いだったのだろうか。