山田太郎「日本製造業の次世代戦略」

 帝国陸海軍の「第一の敗戦」、銀行の「第二の敗戦」、そして日本人が「最強」と信じている製造業にも「第三の敗戦」が迫っているという。団塊世代が引退して、技術の継承ができなくなるとか、そうした理由ではない。「職人芸」「名人芸」「匠」の世界から、グローバル、ネットワークの世界、いわば「ウィキノミクス」的世界へと製造業も移行し始めており、その対応への遅れが日本の製造業に危機をもたらすという。筆者はIT系を基盤としたコンサルティング会社の人なので、そうした立ち位置からの立論ということではあるが、説得力はある。空母など航空戦力の時代に対応し損なった帝国陸海軍(着眼したのは日本だったのに・・・)、デリバティブなどの金融革命に乗り遅れた銀行(そこではリスク管理も重要。BIS規制は日本の銀行いじめとか言っていたけど、主眼は金融大変動時代のリスク管理のあり方。国際会計基準から何から、みんな出遅れ)、そして今の製造業というわけ。刺激的な本だった。そういえば、太平洋戦争の航空戦も、最初は操縦士の個人的な技量で勝る日本軍が優勢だったが、途中から、チームワークで戦列を組み組織戦を展開する米国に逆転されてしまった。何だか、同じような構図か。
 もう一つ、この本で参考になったのは、今の世界景気を支えているのは、BRICsをはじめとした新興成長国の購買力の向上ということ。日本は、世界で一番うるさい消費者を相手に、高性能・多機能の製品を作り、それを先進国に売るのを得意としてきたけど、今度はリーズナブルな価格で、リーズナブルの機能の製品が求められている。高コスト構造に対応して、高付加価値化(高額化)したい日本の企業には、機能はほどほどで、ほどほどの価格の「良い製品」が欲しい新興成長国の消費者への対応はつらいし、得意でもない。日本の消費者にそうした製品がどれだけ通じるかも分からないし、国内ニーズと海外ニーズが分離していってしまうリスクもある。サムソンにかなわないはずだなあ。携帯電話を見ていても、わかる。日本は超多機能、海外はデザインは洗練されているが、機能はさっぱりしている。自動車だって、インドでは3000ドル・カーなんて言う話も出始めているし。
 コンサルティングの広報も兼ねての本という気もするが、これからの製造業を考えていく上で参考になった。