アンナ・ポリトコフスカヤ「プーチニズム」

プーチニズム 報道されないロシアの現実

プーチニズム 報道されないロシアの現実

 殺されたロシア人ジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤルポルタージュ。副題に「報道されないロシアの現実」とあるが、チェチェン問題を中心に驚天動地のロシアの現実が描写される。なぜ殺されたのかがわかるぐらい、危険な状況の中で現体制、マフィア社会に対する批判を事実によって展開する。これを読むと、ユコス問題がなぜ起きたのか、なぜ英国でロシア人の元スパイが毒殺されたのかがわかる。司法と権力(表の政府、軍部はもちろん裏社会のマフィアも含めて)の癒着、ソ連時代に反体制派知識人の弾圧のツールとして使われた精神医学が今度は、権力が刑事事件から逃れる道具となっていることなど、ニュー・ロシアの古くて新しい現実を見せてくれる。しかし、下士官が兵卒を殴るというのは、古今東西どこの軍隊にでも起きてきた話ではあるが、上級将校が下級将校を酔っぱらって殴るという軍隊は、どうなっているのだろう。長期化する戦争は、軍を、社会を腐敗させていくが、チェチェンはロシア社会を蝕んでいる。ポリトコフスカヤがチェチェン問題にこだわる理由もわかる。プーチンにしても米国のブッシュにしても、権力はメディアを操作する。そして、自由な時代であるはずなのに、メディアは情報操作に流されてしまう。ジャーナリズムの危機の時代なんだなあ。それだけに、この本は、ジャーナリストの勇気とは何かを教えてくれる。