中島聡「おもてなしの経営学」

おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由 (アスキー新書)

おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由 (アスキー新書)

 「中島聡」というマイクロソフトWindows開発に参加した伝説的な日本人プログラマーがいるという話は、何かで読んだか、聞いたかして知っていた。で、はてなブックマークを辿っているうちに「Life is beautiful」という面白くて刺激的なブログに当たり、そのブロガーが誰かと思ったら、その中島聡氏だった。で、その著書が出たので、これは迷いなく買ったのだが、これが面白く、刺激的だった。副題に「アップルがソニーを超えた理由」とあるが、アップル、ソニー、グーグルはもちろんこと、中島氏が内側から見たマイクロソフトが語られる。そして、西村博之、古川享、梅田望夫各紙との豪華特別対談まであるのだから、たまらない。古川・中島の「私たちがマイクロソフトを辞めた本当の理由」は、マイクロソフトの強さと同時に現在の難しさがわかるし、西村・中島対談では、ひろゆきのすごさが初めてわかった。『2ちゃんねるはなぜ潰れないのか? (扶桑社新書)』も読んだのだが、そのときは、頭では何となくわかりながらも、もうひとつ、すとんと落ちないところがあったのだが、これを読んで、「グーグルって何にも考えていない」論も含めて理解できた。中島氏の引き出し方がうまいんだな。
 で、本のなかから、いくつか、印象に残った話。

 私(中島) インターネットの時代になり、イノベーションのスピードが大きく変わっている。ひとつのプロジェクトが3年も5年もかけていては時代遅れになってしまう。今までとはやり方を変えて、少人数で6カ月サイクルぐらいで新しいものを作っていくべきだ。
 ビル・ゲイツ そんなことはどこのベンチャー企業でもできる。資金力と人的リソースを持っているマイクロソフトにしかできないことをしてこそ差別化できるんだ。

 こうしたことがあって、中島氏はマイクロソフト辞めるわけだが、ビル・ゲイツの判断は経営者としては正しい。そうした開発はベンチャーに任せて、買収すればいいと言うのが、大企業としての判断になる。この本の中では、この方程式に挑戦しているのが、グーグルで、社内で小集団による開発を行っている。シリコンバレーの産業としての生態系を、企業の内側に持とうとする試みだが、いつ潰れるかわからないベンチャーのような必死さがないわけで、一種の研究所みたいになってしまって、本当に新しいものが生まれるのかどうかは、わからないという話も出てくる。グーグルもYouTubeを買収することになったわけだし。
 で、次は対談のなかでの、古川享氏の発言・・・

 あるエンジニアの人に、仕事人にはふたつのタイプがいるという話を聞いたことがあるんだ。「上を見て」仕事をするタイプと、「天を見て」仕事をするタイプ。上司の顔色や直近の自分の損得だけで動くのが「上を見て」仕事をする人。「天を見て」仕事をする人は、会社や上司のためではなくお客さまのためにいい仕事をする、この技術が未来につながるとか社会的に必要だという美学を貫き、自分の信条を持って動く。

 そうだなあ。「天を見て」という人でありたいなあ。
 でも、この本を読み終わって思うのは、インターネットの時代は、ハードとか、ソフトとか、コンテンツとか、個別の追求ではなくて、サービスの時代になるんだなあ。「おもてなし」は結局はサービスに収斂されていくように思える。そういえば、ドイツの大手メディア(出版、音楽など)、ベルテルスマンの新しいCEO、Hartmut Ostrowski氏はサービス部門の出身らしい。そうした時代を読んでの人選なんだろうか。
【参考】
・Economisitのベルテルスマン新CEOの紹介記事「Service is everything」
 http://www.economist.com/people/displaystory.cfm?story_id=10875830