ピーター・ボグダノヴィッチ「私のハリウッド交友録」

私のハリウッド交友録 ~映画スター25人の肖像

私のハリウッド交友録 ~映画スター25人の肖像

 副題に「映画スター25人の肖像」。映画監督、評論家、俳優と多彩な顔を持つピーター・僕だのヴィッチの交友録。リヴァー・フェニックスが一番最近の俳優という感じで、リリアン・ギッシュとか、ハンフリー・ボガートとか、いまや古典の世界の人たちが登場する。821ページの凶器になるぐらい分厚い本で、興味のある人、目に付いたところを拾い読み。
 一番読みたかったのは、ジョン・カサヴェテスマリリン・モンロー。期待通りに興味深い。カサヴェテスと「グロリア」のヒロインを演じた愛妻、ジーナ・ローランズは本当に仲が良かったんだなあ。映画人としては苦労していた。モンローについてはアーサー・ミラーとの交遊も交えて語る。モンローがアクターズ・スタジオに通ったのは有名だが、ボグダノヴィッチはリー・ストラスバーグが嫌いらしく、悪魔のように描いている。オードリー・ヘップバーンジャック・レモンケーリー・グラントは好きな俳優なのだが、この交友録を読んで、さらに好感度が上がった。一方、最初はそれほど興味を持っていなかったのだが、面白かったのは、ジェイムズ・キャグニーとマレーネ・ディートリッヒ。魅力的な人物。
 しかし、ピーター・ボグダノヴィッチ本人もかなり気になる人。この本を読んで、殺されたプレイメイト、ドロシー・ストラットンのフィアンセがボグダノビッチだったと知った。1971年から73年にかけて「ラスト・ショー」「おかしなおかしな大追跡」「ペーパー・ムーン」と名作・話題作をつくったのだが、その後はパッとせず、二度と輝くことがなかったという印象がある。ストラットン事件もそうだし、シビル・シェパードとの関係とか、スキャンダルの方で名を馳せてしまった。何があったのだろう。むしろ、本の世界の人になって、そちらでは、この本もそうだし、面白いものを残している。ジョン・フォードのインタビュー本も出していたなあ。
 で、この本でもうひとつ特筆すべきは訳者、遠山純生の「資料・訳註」。文中に登場する作品、俳優、監督などに関する注が巻末に2段組170ページ余りある。執念の労作。この「資料・訳註」だけでも読む価値がある。訳者もまた、すごい。