カート・ヴォネガット「追憶のハルマゲドン」

追憶のハルマゲドン

追憶のハルマゲドン

 昨年2007年に亡くなったカート・ヴォネガットの死後に出版された作品集。急逝したために果たせなかったインディアナ州の大学での講演原稿などを読んでいると、真面目なのか、不真面目なのか、よくわからない話し方をする人だが、「スローターハウス5」で知られているように、連合軍によるドイツ・ドレスデン大爆撃を捕虜として体験した人と思うと、ユーモア、ジョークでしか現実を語れなくなってしまったのがわかる気がする。この作品集も縦糸をなすのは、ドレスデン大爆撃の体験。家族への手紙、エッセイ、小説など様々な形で、この悲劇を表現している。22歳の時に、欧州を代表する美しい古都に逃げ込んだ老若男女、赤ん坊に至るまで24時間爆撃で殺戮し尽くしたのをみれば、米国の大義も、正義の戦争も信じられなくなってしまうだろう。そのことを声高に叫ぶこともせず、冗談のように語るしかないところに、その経験の凄まじさを感じる。