シッコ

シッコ [DVD]

シッコ [DVD]

 マイケル・ムーアが米国の医療保険制度を告発したドキュメント。日本や欧州から考えると、想像を絶することなのだけど、米国は国民皆保険ではない。5000万人が医療保険に入っていない(入れないと言った方が正しいか)。加えて、医療保険は民間で、しかも利益を追求している。自由競争・営利追求の中で、医療保険会社は保険金支払いという「損失」を忌避する。そして、その営利追求のシステムは、専門家である医師も、政治家も、カネの力で飲み込んでいく。ヒポクラテスの誓いも、国民への奉仕の精神も買われてしまう。
 ロバート・ライシュの「暴走する資本主義」でも、ポール・クルーグマンの「格差はつくられた」でも、米国の医療保険制度の問題は指摘されているが、現実の映像を見せられると、問題の深刻さと悲惨さを痛感する。ここへきての金融不安は、米国に始まった「資本主義の暴走」の終着点でもあるわけで、政治経済システムの改革は不可欠なのだな。ニュー・ニューディールの時代にあるんだと思う。時代がオバマを呼んでいるのかもしれない。オバマがFDRのように新政策を打ち出せるかどうかは未知数だが、FDRの周辺に「ブレーントラスト」といわれた知識集団が形成されたように、オバマも、そうした集団を形成する可能性を感じる。
 マケインの欠点はそうした知的集団の香りがしないことだなあ。マケインの経済顧問として名前が出てくるのは、元ヒューレット・パッカードCEOのカーリー・フィオリーナと元イーベイCEOのメグ・ホイットマン。メグ・ホイットマンは経営者としての評価は高かったが、フィオリーナは毀誉褒貶が激しく、どちらかというと、大企業経営者タイプで、シリコンバレーの嫌われ者という印象がある。ちょっとねえ。経営の効率性には強そうだが、金融とか、経済という、より広い視野と歴史観が求められる仕事には向いていない感じが。
 マイケル・ムーアらしく、ちょっと大げさで、くどくて、ちょっと誇張が入っている感じもするけど、問題点を指摘し、啓蒙するという点では意義のある映画。それに面白いし。ドキュメンタリーでありながら、エンターテインメントになっている。ジャーナリズムにも。
【参考】
・オフィシャルサイト
 http://sicko.gyao.jp/
wikipediaで見ると
 wikipedia:シッコ