千住博「美は時を超える」

美は時を超える 千住博の美術の授業 (光文社新書)

美は時を超える 千住博の美術の授業 (光文社新書)

 副題に「千住博の美術の授業」。NHKテレビの放送講座の書籍化。アルタミラの洞窟画に始まり、モネの視力低下と色彩の変化、水墨画の世界、風景画と神の発見、ウォーホールと消費文化など、どれも印象的な美術論。特に面白かったのが日本の鎧兜に関する考察。美と死の関係。美は神でありであり、それと一体化することで不死となる。なるほどなあ。加えて、欧州の鎧が実用本位で無個性なのに対し、日本の鎧兜は個性を主張する。武士は、静かに己を殺して日常を過ごしながら、非日常の戦場においては一転して個を主張する。まさに「武士道とは死ぬことと見つけたり」の世界なんだなあ。死と美と個に日本があるのか。鎧兜はあまり興味がなかったのだが、この本を読んで、じっくりと見てみたくなる。直江兼続の「愛」の兜も、伝統からの逸脱というより、兜の伝統に則った個人の美意識を凝結した正統的な産物だったんだなあ。