イビチャ・オシム「考えよ!」

 副題に「なぜ日本人はリスクは冒さないのか?」。サッカー日本代表前監督の日本人論というより、日本サッカー論。ワールドカップ南アフリカ大会を見るためのガイドブックのような本で、本当ならば、雑誌の特集か、ムックのメーンになっているものが新書になっている感じ。ま、新書のほうが読みやすくていいが。
 カメルーン、オランダ、デンマークなどEグループの話や日本代表の選手論も出てきて、時節柄、興味は尽きない。日本代表に必要なものは「自信」としているが、これはカメルーン戦に勝ったことで定着してきた感じがする。オランダ戦でも感じられたし。中村俊輔については「彼は本当にサッカー選手として必要なものをすべて手にしている」と高く評価しつつ、こんな課題を指摘している。

 中村俊輔は、決闘を好み勝負するプレーヤーではない。私が代表監督のときは、危険な存在になるように、いつも「前へ行け!」を言い続けていた。しかし、彼は不思議なことにさらに下がった。
 ディフェンスすることにおいては身体的な弱点がある。パワーとスタミナにも欠ける。これは私が言うまでもなく、すでにそう評価されていることではある。ディフェンスのリズムを打ち出すのに必要なパワーとスタミナに欠けるのだ。
 中村俊輔は、ディシプリンはできているが、前に出ず、常にボジションが低いため、それを活かすことができない。私は、何度も、彼のポジショニングを上げることにトライしたが、それは実現することができなかった。

 う〜ん。岡田監督も同じ結論だったのか。本田か中村かという論争について、オシムは、共存ではなく、最初からどちらかひとりというのはメディアがつくった無意味な議論といい、「古い井戸に水があるのに新しい井戸を掘るのはやめたほうがいい」と、基本的に経験豊かな中村を使うことが理にかなっているとしているが、その一方で、こんな一節もある。

 共存ではなく、どちらか1人を選ぶとなると、これは難しい決断になるかもしれない。もし本田を使うならば、それは日本代表にとって一歩前進かもしれない。それは中村俊輔からスターの地位を強奪することを意味しているからだ。どの国にも蔓延しているスター主義からは脱却できる。

 その意味で言うと、カメルーン戦、オランダ戦は、日本サッカーが新しい時代に入ったことを象徴していたのかもしれない。今日の試合でも、スターは本田というより、松井、大久保、闘莉王、中沢、長友、阿部、長谷部、遠藤、阿部、駒野ーーみんな見せ場があったしなあ。
 ともあれ、オシムのサッカー論は面白い。サッカーにも日本にも愛がある。日本vsオランダ戦に、オシムがどんなコメントをするかも楽しみ。