最相葉月「星新一 1001話をつくった人」
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人を信用しない人だった。編集者ばかりではない。秘書はいない。税理士もいない。育児に追われて家政婦を雇いたいと相談したときも、他人を家にあげることを嫌い、強く反対された。(中略)親戚でも遠い関係になると警戒した。家で会社や親のことをほとんど話さなかったのも、妻にいえばその母親に伝わり、そこからまた誰かに伝わると思ったからなのだろう。信じられるのは自分ひとり、だった。あんなに人が信じられなくて、どれほど苦しかっただろう。
父、星一死後の星製薬の後始末で筆舌に尽くしがたいことがいろいろとあったのだろう。そして、あれほどの人でも、やはり直木賞など大きな文学賞を受けることができなかったことが心の傷になっているとは。人は信じられないが、文壇から評価されることで、人から愛され、自分が信じられていることを確認したかったのだろうか。星のショートショートは、大人の童話として、これからもずっと生き続けると思うが、その作者がこれほど複雑で傷付いた人とは思わなかった。奇抜な発言の類も、この本を読み終わってみると、誰かに振り返って欲しいという孤独の裏返しのように思えてしまう。
1001話のショートショートの創作は星新一の生命を削りとってしまったかもしれない。しかし、その一方で、SFに、ショートショートに出会わなかったら、星製薬の後継者からお飾りのような副社長になった星親一(本名)は孤独の中で自死してしまい、星新一は生まれなかったのだろう。そんな危ういところから、「ボッコちゃん」や「おーい、でてこーい」が誕生したのか。星が残した作品とは違って、哀しくて凄絶な人生だったんだなあ。
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