「アーティストの言葉」

アーティストの言葉―美の創造主たちの格言

アーティストの言葉―美の創造主たちの格言

 副題に「美の創造主たちの格言」。画家、デザイナー、カメラマンなど古今東西85人のアーティストの創作に関する名言を集めた本。各アーティストの作品と言葉が見開き2ページで集められている。オールカラーの図版が美しい。「才能を伸ばす」「発想法」「成功の秘訣」「道を極める」「時代を拓く」「スタイルを見出す」の6章に分類されているが、この章立てはハウツー本みたいで、ちょっと興醒めであり、無理やり分類しているようなところもあるが、アーティストと言葉の選択は良い。で、そのなかから、いくつか印象に残った言葉を記すと…。

動植物のすがたを知り尽くすことにより、その「神」に会うことができる。そうして初めて(絵筆を持つ)手が動くのである。
伊藤若冲

 若冲も「神は細部に宿る」と考えていたのか。ヨーロッパの画家たちが精細な絵を描くことは神を描くことと考えていたのに通じるものがある。若冲はやはり面白い。

 世界に「意味を与える」ために人はファインダーの向こう側に、関係している自分自身を感じなければならない。そのためには、集中力、心の鍛錬、繊細さ、そして幾何学的なセンスが求められる。
アンリ・カルティエブレッソン

 これも「決定的瞬間」をカメラに収めたカルティエブレッソンならではの言葉。写真の極意がこの言葉に集約されている。

 肝心なのは見る観点だ。どんな物をも、一個の古靴でさえも、彫刻となるものは、その見方と置き方なのである。
イサム・ノグチ

 これまた含蓄のある言葉。アートとは「見る観点」だ。

 芸術家は、自分が見たいと願うものを見る。それは想像上の光景に違いない。だが、その偽りこそが芸術を創造するのだ。
エドガー・ドガ

 これまた深い言葉。「偽りこそが芸術を創造する」。うーん、アートの真髄。

 画家の描きたいと欲する心が備わっているかどうかが問題で、その気持ちがなければ筆はのらず、よい絵にはならない。ただ見た目が美しいだけの絵は価値がない。そんな絵は死んでいるのと同然だ。
尾形光琳

 光琳も厳しい言葉を吐いていたのだなあ。確かに、ただ美しいだけでは風雪に耐えることはできないし、心にも響かない。最後は魂の問題というのは古来変わらない。

 芸術の本質は、見えるものをそのまま再現するのではなく、見えるようにすることにある。
パウル・クレー

 そのまま再現するのではなく、見えるようにすること---。これまたアートの本質。その発言の主がパウル・クレーというところがまたいい。

 現代的な芸術など存在しない。あるのはただひとつ永遠に続く芸術のみである。
エゴン・シーレ

 シーレがこんなことを言っていたのか。これまた核心を突いた言葉。

 芸術とはコミュニケイトしたいという人間の欲求だ。
エドヴァルド・ムンク

 素晴らしい。それがムンクの言葉であることがまた心を打つ。
 ともあれ、どのページを開いても、美しい図版と深イイ言葉を楽しめる本。