田村修一『オシム 勝つ日本』

オシム 勝つ日本

オシム 勝つ日本

 イビチャ・オシムのロング・インタビュー集。2010年4月の出版なので、ワールドカップ需要を見込んだ本ともいえるが、オシムのサッカー論が、日本代表からクラブ(Jリーグリーガ・エスパニョーラプレミアリーグブンデスリーガなど)、選手、監督、育成まで全面展開されていて興味が尽きない。トータルフットボールのモデルとなる原型としてハンドボールが語られているのも面白い。確かに、ハンドボールは速攻に加え、ゴール前での素早いパス回しから相手の守備を崩しシュートに至る。サッカーはスピードアップしているというが、ハンドボールのように高速化していくのだろうか。
 目次で内容を見ると...

第1章 日本代表
第2章 日本サッカーに次ぐ 〜問題点
第3章 オシムの仕事
第4章 世界のサッカー
第5章 オシムの哲学 〜サッカーの今日
第6章 監督論と監督の仕事

 これにプロローグとエピローグがつくのだが、この本の不思議なところは、エピローグに、これがオシムとのロングインタビューという話が出てくるのだが、それまで、どこにも、これがオシムのロングインタビューであり、それも質問抜きの語りおろし形式の本ということが語られていないこと。プロローグとエピローグの「私」は筆者でインタビュアーの田村氏で、各章の「私」はオシム。本をつくっている側は、わかっているのだろうが、本を読む側は、何の説明もない展開で、この「私」の変移には違和感がある。
 タイトルも「オシム」と「勝つ日本」の間を開けており、「オシム著」とも思える体裁。「イビチャ・オシム×田村修一」とでもしたほうが良かったのかもしれない。実態としては「イビチャ・オシム(取材・構成:田村修一)」という書き方が最も合っている。取材者の自我が出てしまって、かえって、誰の本か、わかりにくくなってしまった。内容はサッカー論として刺激的だし、それは取材者の力なのは確かなのだから、本の体裁としては後ろに引いたほうが良かったと思う。
 で、日本代表監督選びが難航している時節柄、印象に残ったのは次の一節。

 ゼネラル・マネジャー(GM)の役割は大きいが、日本の場合、彼らがどんなふうに仕事をしているのかが私にはよく分からない。(中略)彼らには能力があるが、その能力を十分に活用していないというのが、私が受けた印象だ。
 外国人選手の移籍を見てもそう。どこまで信用していいかわからない外国人エージェントに頼りきって、満足してしまっていることが多々ある。
 たとえば私が選手の獲得を考えるとき、必ず複数の知人に仲介させる。そうすることで第三者の判断も加わるわけだが、それでも常に正しい選択ができるとは限らない。
 ところが日本のGMは、知り合いの外国人エージェントに任せきりで、自分は何もしない。だから選手が日本にやってきたときはもう遅い。使いものにならなくとも、手の施しようがない。しかもすでに金はかけてしまっている。

 これってサッカーだけではなくて、企業のM&Aも同じかも。