保坂正康『眞説・光クラブ事件』

真説 光クラブ事件 ―東大生はなぜヤミ金融屋になったのか―

真説 光クラブ事件 ―東大生はなぜヤミ金融屋になったのか―

 副題に「東大生はなぜヤミ金融屋になったのか」。戦後の混乱期に「東大生社長の金融業者」として話題を集めながらも、経営が破綻、自殺した光クラブ山崎晃嗣に関するルポルタージュ光クラブ事件は高木彬光の『白昼の死角』のモデルにもなっており、実際はどんな事件だったのかと関心を持って読み始めた。山崎は学徒出陣しており、背景には戦争と社会に対する怒りがあったという。それを手記や現地、関係者の取材を通じて解き明かしていくのだが、最も面白かったのは、三島由紀夫との関係だった。
 三島は学年は違うが、山崎と同じ時期に東大に通っていた。同じ講義を受け、知り合いだった可能性があるという。光クラブ事件に題材をとった三島の『青の時代』には、山崎の人生体験や実家などの事実が詳細に織り込まれている。さらに山崎が自殺したのが1949年11月25日で、三島の自決が1970年の同じ11月25日とか...。三島の『青の時代』を読んでみたくなってしまった。保坂のルポルタージュは、戦中派の「山崎の怒り」を追求していくのだが、当時の空気と青年たちの心情は小説のほうが表現手段として適しているかもしれない。
 で、もうひとつ残念のは、藤田田に取材できていないこと。体調不調と記憶が定かではないことを理由に断られたというが、のちに日本マクドナルドをつくった藤田こそ光クラブの本当の主役であり、山崎は犠牲になったとの「伝説」がある。それは単なる風聞なのか、それとも、そうしたウワサを生む何かがあったのか、山崎と藤田の関係を知りたかったのだが、そのあたりにはついては全く触れられていないのが少々、物足りなかった。
青の時代 (新潮文庫) 白昼の死角 (光文社文庫) 勝てば官軍―成功の法則