水嶋ヒロの『KAGEROU』、書店予約注文で40万部...。返本が怖い?

俳優の水嶋ヒロさん(26)が本名の斎藤智裕(ともひろ)名義で書いた小説「KAGEROU」が15日、発売される。ポプラ社小説大賞を受賞して話題になり、書店の予約注文は40万部を突破。発売前に増刷になり、部数はすでに4刷43万部となった。発売時としては、村上春樹さんの「1Q84」BOOK1の25万部を上回る異例の数字だ。

 発売時の部数としては『1Q84』を超えた!ーー話題作りがうまいポプラらしい仕掛けだなあ。イベント化した本が売れるという最近のブック・マーケティングの王道を行くような形になってきた。自分で宣伝しなくても、テレビのワイドショーがとりあげてくれるから、安上がり。広告よりPRという、いまどきのマーケティング戦略でもある。
 しかし、書店の予約注文が40万部で、43万部刷ってしまったというのは怖いだろうなあ。書店は委託販売制度で返本自由だから、どれぐらいが実需かわからない。盛り上がりを見越して、多めに在庫を積んでおく書店も多いだろうから、話題性が消えないうちにスタートダッシュをかけられないと、返本の山ができるリスクがある。当たれば、お札を刷っているようなもの、外れれば、赤字の山――これが出版ビジネスの醍醐味なんだろうけど。
 まだ主催者側発表の数字だろうから、問題は、これから出てくる各書店の実売数字がどのくらいで、どれだけ持続するか。一番、簡単なチェック方法は、アマゾンのベストセラー・ランキングをウォッチしておくことだろう。いまランキングを見てみたら当然トップ。クチコミの評価は辛めだけど、これはセレブ分のマイナス・バイアスも入るだろうから、小説としての評価自体は自分で読まないとわからないな。
 ただ、批評が出ないうちに大量宣伝・PRで一気に売るという手法は、シネマ・コンプレックス登場以降、映画会社が得意とするもの。全国のスクリーンを占拠し、テレビ広告を打ちまくって映画をイベント化する短期決戦主義。どんな出来の映画でも最初の1週間で稼ぐ刹那的な方式だが、このマーケティングで、ハリウッドは中身の薄い映画でも過去の名作をしのぐ大きな売り上げをつくることができるようなった。『KAGEROU』は、このハリウッド式ブロックバスター戦略で、どれだけ本の売り上げを作ることができるかどうかの実験かもしれない。
【追記】
 楽天ブックスのランキングを見たら、『のだめカンタービレ』を追い上げて、2位に上昇しているところ。マンガと比べてはいけないのか、それとも書店(オンライン書店)によって温度差があるということだろうか。
【12月17日追記】
 スタートダッシュの勢いは止まらない。

俳優・水嶋ヒロ(26)が本名の齋藤智裕名義で書いた「第5回ポプラ社小説大賞」の受賞作「KAGEROU」の累計部数が発売2日目の16日、68万部に達した。ポプラ社が発表した。同社によると、15日に43万部を発売すると、午前中から売り切れ店が続出。追加注文が殺到したため、重版を決定し、25万部を増刷した。新人としては異例の数字だ。作家の印税は通常10%前後と言われている。同書は1冊1470円。水嶋の契約も同等とみられ、単純計算でも9996万円を手にしたことになる。

 ふだん本を買わない人が買う本がベストセラーと言った人がいたけど、その通りだな。印税は決まっているから、作家の側はいいけど、山が高くなればなるほど、返本のリスクも大きくなるから、出版社側は大変だなあ。で、12月17日18時現在、アマゾンは品切れで12月24日入荷予定だけど、楽天ブックスは在庫がある。こうした在庫の偏在もあるから、怖いよなあ。でも、怖がっていたら、大儲けができないのが、ビジネスで...。僕みたいな怖がりは金持ちになれないんだよなあ。
【12月22日追記】
 佐々木俊尚さんのツイッターを見て知ったのだが、この本、ポプラ社は委託販売制ではなくて責任販売制を採用していた。
ポプラ社水嶋ヒロ氏のデビュー作を責任販売で」(新文化
 http://www.shinbunka.co.jp/news2010/11/101115-03.htm
 ちゃんとリスクヘッジをしていたのだ。やっぱり、短期決戦の今回の勝負、返本対策は必だったのだな。
★アマゾンのベストセラー・ランキング
 http://www.amazon.co.jp/gp/bestsellers/books/

KAGEROU

KAGEROU

楽天ブックスのベストセラー・ランキング
 http://books.rakuten.co.jp/book/rank/