エジプト、ムバラク大統領は辞任せず。軍が退任を求めたという報道もあったが...

民衆による激しい退陣要求デモに直面するエジプトのムバラク大統領(82)は10日午後10時半(日本時間11日午前5時半)過ぎに国営テレビを通じて演説し、憲法に基づいて権限をスレイマン副大統領に委譲すると述べた。一方で平和的な政権移行の重要性を強調し、デモ参加者が求めていた9月の任期前の辞任については表明しなかった。

 昨晩1時頃に寝たときは、軍が大統領と会談、辞任を発表するのではないかという情報が流れ、タハリール広場に集まった市民に期待感が高まっていた。アルジャジーラのウェブライブで見ていても、広場は埋め尽くされ、熱気が感じられた。それが起きてみれば、大統領が発表したのは副大統領への権限委譲で、自分は職にとどまるという。これだけ期待を高めては、失望も深くなる。休息日の金曜である11日はデモに最大規模の動員がかかるときだが、これからどうなるのだろう。
 見ていると、ムバラク大統領は反政府派を挑発しているように見える。一部でも暴徒に走れば、それを理由に武力で鎮圧するということを考えているんじゃないか。先日の大統領派による反政府派攻撃もそのひとつに思える。その後は軍が両者を分離して安定を保っていると言うが、本当は挑発、暴徒化、鎮圧という独裁政権としてはわかりやすいシナリオを持っているようにみえる。統治の技術としては、反体制派は「政治犯」ではなく「刑事犯」にしてしまうことが肝要だから。カール・シュミットの『パルチザンの理論』にも、そんな話が出てくる。
 いまのところ、エジプトでは軍がそれを抑止しているともいえるわけで、結局のところ、軍がどう動くかがキーポイントなのだろう。軍にしても、これだけの国民運動になってしまうと、その鎮圧のために軍が末端にいたるまで命令に従うのかどうかはわからない。軍としては軍の秩序を守ることが最優先になるのだろう。そんなこんな、ムバラク政権側も、それぞれの人たちが自分たちの将来も含めて、いろいろな思惑が交錯しているのだろう。
 ということで、ムバラク大統領側は、持久戦に持ち込んで反政府が疲弊し、エネルギーを弱まったところを待って抑え込むか、挑発して暴発させ、一気に武力鎮圧するか、考えているようにみえる。一方、反政府派もそれがわかっているから、挑発に乗らずに、秩序を保っている。ただ、持久戦にどこまで耐えられるかはわからない。そうした中で迎えた11日の金曜日。日本の建国記念日に当たる2月11日が、エジプトにとって歴史的な日になるのだろうか。

パルチザンの理論―政治的なものの概念についての中間所見 (ちくま学芸文庫)

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