フェイク

 FBIの捜査官がマフィアに潜入捜査する実話の映画化。ジョニー・デップが潜入捜査官、デップを組織に引き入れることになる年老いた下っ端マフィアをアル・パチーノが演じるのだから、単純な勧善懲悪の物語ではない。デップは次第にパチーノに惹かれ、正義もモラルも曖昧になってくる。自分が潜入捜査官として摘発すれば、パチーノはマフィアの制裁で殺される。自分の手で殺すのと同じというジレンマに苦しみ、自分の中の正義も揺らぎ出す。実話がベースにあるから、最後は世紀の潜入摘発サクセスストーリーになるのだが、虚しさだけが残るという話になる。
 デップもいいが、アル・パチーノのしけたヤクザがいい。いい歳になっても、成り上がれない下っ端のマフィア。なのに、マフィアの世界にどっぷり浸かり、その価値観を信じているところが、やるせない。おまけに最後までデップを信じている。俳優陣が良くて、成り上がる若手のマフィアにマイケル・マドセン、デップの夫人役でアン・ヘッシュ(このころは可憐だった)。「ダメージ」で自殺する弁護士例・フィスクを演じたジェリコ・イヴァネクがFBIの若手捜査官役で出ていた。
フェイク―マフィアをはめた男 (集英社文庫)