パワーアカデミー編著『世界一の電気はこうしてつくられる!』

世界一の電気はこうしてつくられる!

世界一の電気はこうしてつくられる!

 計画停電時代を迎え、電気(電力)のお勉強。あとがきに「本書は、大学の電気工学を元気にしたいという一心で、日本の電力システムについて、高校生、大学生を主な読者層として書いたものです」とあるように、電力業界への新人リクルート向けPRのような初心者向け入門書。そうした性格の啓蒙書であるだけに、電力業界に肯定的である半面、素人にもわかりやすく、親切に書かれている。タイトルを見ながら、そういえば、3.11までは、日本の電気は最も停電が少なく、品質も最も安定しているといわれていたんだなあ、と思ってしまった。まあ、神話が崩れたのは、東京電力(多少、東北電力)だけで、ほかは今も「世界一の電気」かもしれない。
 で、内容を目次で見ると...

第1章 海外で停電は日常茶飯事
第2章 電気が届くしくみを知ろう
第3章 停電しないのにはわけがある
第4章 電気の需要にはどんな特性があるの
第5章 日本の電力を支える人びと
第6章 地球にやさしい最先端の電力システムの研究

 注目はやはり第3章。電気の需要は1日でも大きく変化する。この需要をどのような発電方式で対応しているかというグラフが出ているのだが、原子力、石炭、水力をベースとして、石油、LNGで変動分に対応するという仕組み。このベースとなる原子力に支障が生じたわけだから、事態は深刻なんだなあ。加えて、今回のようなことに対する安全コスト(環境破壊コスト)を考えると、機器のライフスパンとリスクを見た場合、このまま原子力に依存していいのかという問題にもなる。すぐに原発停止という選択はないだろうが、新規は難しいだろう。とすると、そう簡単に東電管内での電力の安定供給復活とは行かないだろうなあ。もし、復活しても、今度はコストの問題に直面するのではないかと思えてくる。その場合は電力料金も上がると...。こと電力という面からみると、ビジネスにも生活にも、東電管内はコストの高い地域ということになるかもしれない。
 続いて、注目が第6章の最先端システム。ここでは送電でのロスを防ぐ「超電導」、電力ネットワークの安定化に寄与する「インバータ」、温暖化対策として注目される「風力発電」「太陽光発電」、そして「燃料電池」。風力、太陽光は期待の技術だが、原子力のように24時間発電というわけではなく、需要変動に対応する電力と言えそう。燃料電池には期待がかかり、各社が開発競争を繰り広げている。ここでは、大中規模・家庭用のSOFC(固定酸化物形)、大規模発電用のMCFC(溶融炭酸塩形)、自動車・家庭用のPEFC(固体高分子形)が紹介されている。
 ともあれ、今回の原発事故をきっかけに、原発化石燃料に依存しない「世界一」の最先端・電力システムを構築することが日本の新たなミッションなのだろうなあ。読んでいるうちに、関心はスマートグリッドに広がった。そちらの本も読んでみようか。