アイガー北壁

アイガー北壁 [DVD]

アイガー北壁 [DVD]

 アイガー北壁に挑戦する男たちを描いたドイツ映画。先日、WOWOWで放映していて事前の知識もなく、アイガー北壁初登攀をめぐるサクセス・ストーリーかと思って見ていたら、1936年のドイツ隊とオーストリア隊の遭難劇だった(ウィキペディアに詳細に出ていたが、それを読むと、映画は史実を忠実に再現していることがわかる)。「八甲田山」みたいに猛烈な吹雪に見舞われるので、さすがに冬とは思わないものの、春か秋かと思ったら、7月の話だった。アイガーというのは、そういう場所なんだ。山岳撮影がすごく、迫真の映画。
 初登攀の先陣争いをめぐる背景としては、ナチスドイツ国民(あるいはドイツに併合しようとしていたオーストリアのドイツ系)に初登攀させ、国威発揚に利用しようとしていたということがある。ベルリン・オリンピックは同じ1936年の8月だから、ナチスはスポーツの政治利用を強烈に推進していた季節の物語。映画の主人公となるトニー・クルツは純粋とした登山家で、そうしたことに反発していたという設定(事実はどうなのだろう)。遭難もオーストリア隊にけが人が出たところから計画に齟齬を生じるのだが、この負傷者を見捨てて初登攀の道を進むのか、それとも助けるために断念するのかということは、ナチス的な強い者だけが美しいという弱者蔑視の英雄思想をとるかどうかという話として、つながってくる。
 山では、登頂を断念できることが最も貴い勇気という話があるが、これは、その物語。
★映画『アイガー北壁』オフィシャルサイト => http://www.hokuheki.com/
ウィキペディアで「アイガー」登頂の歴史をみると => http://bit.ly/lpUQA3