石川幹人『人はなぜだまされるのか』
人はなぜだまされるのか―進化心理学が解き明かす「心」の不思議 (ブルーバックス)
- 作者: 石川幹人
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/07/21
- メディア: 新書
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進化心理学は、心の働きが形成された経緯を生物進化論にもとづいて考える。人間が自然環境や社会集団の中で円滑に生き抜いていくための機能として、長い生物進化の歴史を通して心が培われてきた。そう考えることで、心の本質があぶり出されてくるのである。
こうした視点から人の心を考えると、なかなか面白い。弱肉強食の自然界を、小動物の集団で生き残ってきた人間としては、相手の言うことを信じる方向に心が先天的にセットされており、懐疑心のほうが後天的なものとなるという。なるほどなあ。このほかにも、いろいろと面白い指摘がある。
目次で内容を見ると...
第1章 錯視 高度な視覚機能のなせるわざ
第2章 注意 明らかな変化なのに気づけない
第3章 記憶 歪められたり、作られたり
第4章 感情 集団を支える怒りと恐怖と好奇心
第5章 想像 壁のシミが幽霊に見えるわけ
第6章 信念 なぜ噂を信じてしまうのか
第7章 予測 将来の危機を過小評価する心の働き
こんな感じ。で、いくつか、面白かったところを抜き書きすると...
小規模の協力集団の中で私たちの心は、「他社の話を信じる」方向に進化した。信念共通化を行いやすいという利点があるからだ。他者は協力集団のメンバーなので、まずは信じるほうが集団として有利なのである。しかし最近では、むしろ「他者の話を信じない」ことの利益も多くなってきたようだ。見知らぬ人と交流する機会が増えてきたので、やみくもに他者を信用すると、それにつけこんだ詐欺にあう可能性が増えてきたからである。
このあたりが冒頭に紹介した話。「オレオレ詐欺」は、人間のDNAに訴えかけているのかもしれない。そして、世の中は信じる時代から懐疑する時代に。
100人程度の集団で過ごしていた時代は、信念を疑うことなくまわりに合わせることに一定の利益があった。信念を共通化したほうが、効率よく協力できるのだ。しかし、数百人以上の規模で生活するようになった社会では、さまざまな見解が錯綜するようになった。そうした状態では、信じることに加えて、適切に疑う「懐疑の精神」が肝要なのだ。懐疑は、進化で必要とされてこなかった技能であり、私たちは原則それを苦手としている。だから、練習をして身につける必要があるのだ。
奇跡について。なぜ特別なことが起きたとき、人は奇跡と感じるのか。
それはひとつには、私たちが法則を求めているからと言えよう。私として生まれてきたのには、意味がある。大いなる法則があって、それによって世界がコントロールされている。そして、まさに私は、その法則を知りたいのだ。宗教は、こうした欲求から生まれてきたに違いない。
なかなか刺激てな本でした。