谷口智彦『金が通貨になる』

金が通貨になる (幻冬舎新書)

金が通貨になる (幻冬舎新書)

 タイトルの「金」には「ゴールド」とフリガナが振ってある。米国を中心とした金本位制復活論をめぐ物語。金本位制を通じて、米国の経済・政治・宗教・思想・社会、中国の地政学的戦略、通貨などへと話は広がっていく。金本位制というのは経済だけでは捉えきれず、宗教の話であり、政治経済学の話なのだなあ。米国で金本位制を唱える人たちは、反連邦政府、宗教原理主義ティーパーティーの流れの人たちであるというのも面白い。ともあれ知的好奇心を刺激されると同時に、米国の退潮と中国の勃興の中で揺れ動くアジア・太平洋地域の今後を考えさせられる本。
 内容を目次で見ると...

序 章 第三の通貨政策X
第1章 「アメリカの原則」プロジェクト
第2章 金本位を求める動き
第3章 今度のドル安は違う
第4章 日本人は金が嫌い?
第5章 ドルvs.中国
第6章 アメリカ史と聖書と金
第7章 金本位を求める大御所二人
第8章 金本位制への移行手順
第9章 金とアメリカの再起

 第4章で、日本人は金に対する執着が乏しく、世界で最も金が好きな国民は中国とインドだという。そして、こんな一節がある。

 金を通貨とみなさくなって以来、すべてのお金はペーパー・マネーとなり、銀行間を飛び交う姿たるや、電子的記号の羅列にすぎません。その記号の羅列を通貨だと信じ込ませているのは権力だけだということを忘れてはならないでしょう。ところがここに唯一、人類の歴史と同じくらい長く通用している超歴史的、超国家的通貨があるのであって、それこそが金にほかならないわけです。その意味で金が大好きな民族・国民とはつまり、今ある権力の永続性を信じないことを習性として身に付けた人々と言えるかもしれません。だからこそ、とにかく金ぴかの装飾品をちょっとずつでもいいから蓄えて、自ら資産を保全しようとするのです。

 権力に対する信頼が揺らぐ21世紀は、金の時代なのだろうか。日本でも次第に金志向が出てくるのだろうか。