東京は桜も満開で花見のピーク。桜で思い出すのは、坂口安吾の「桜の森の満開の下」

 今年の春は遅かったが、東京はようやく桜が満開。ニュースを見ていると、花見もピークらしいが、満開の桜を見ていると、思い出す小説は坂口安吾の「桜の森の満開の下」(なぜか、いつも「満開の桜の樹の下」とタイトルを間違えて覚えてしまう)。
 それは、こんな魅力的な書き出しで始まる。

 桜の花が咲くと人々は酒をぶらさげたり団子をたべて花の下を歩いて絶景だの春ランマンだのと浮かれて陽気になりますが、これは嘘です。なぜ嘘かと申しますと、桜の花の下へ人がより集って酔っ払ってゲロを吐いて喧嘩して、これは江戸時代からの話で、大昔は桜の花の下は怖しいと思っても、絶景だなどとは誰も思いませんでした。近頃は桜の花の下といえば人間がより集って酒をのんで喧嘩していますから陽気でにぎやかだと思いこんでいますが、桜の花の下から人間を取り去ると怖ろしい景色になりますので、能にも、さる母親が愛児を人さらいにさらわれて子供を探して発狂して桜の花の満開の林の下へ来かかり見渡す花びらの陰に子供の幻を描いて狂い死して花びらに埋まってしまう(このところ小生の蛇足)という話もあり、桜の林の花の下に人の姿がなければ怖しいばかりです。

 こうして、おどろおどろしい昔話が語られていく。桜は美しいが、そこには、どこか妖しい美しさがある。そんな創造力を駆り立てる短編小説。坂口安吾の中でも好きな作品。文庫本に入っており、青空文庫にも収録されている(青空文庫iPadiPhoneで読むなら、「i文庫」を使うのがいい)。
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桜の森の満開の下 (講談社文芸文庫)

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