町田徹『JAL再建の真実』

JAL再建の真実 (講談社現代新書)

JAL再建の真実 (講談社現代新書)

 先日、再上場を果たしたJALの実質的な経営破綻をいち早くレポートしたジャーナリストが「JALの再建は本物か?」という疑問に応えた本。経営危機に至った経緯から利益操作、再建をめぐる攻防、民主党政権下の迷走、法的整理と稲盛氏のリーダーシップによる合理化による再建、再上場に至る過程がコンパクトにまとめられている。JALというのは、政治に翻弄された会社である一方、政治や官僚に甘えた会社でもあったと改めて思う。また、今回の再上場も、計画されたものというよりも、現場の努力による結果オーライの再建劇に見えてしまう。もっと違う再建プロセスもあったのかもしれない。いずれにせよ、JAL問題に早くから着目し、一貫してレポートしてきたジャーナリストの記録として読み応えがある。
 目次で内容を見ると、こんな感じ...

第1章 隠れ破綻
第2章 “最後の社長” 西松遙の闘い
第3章 引き金を引いた前原国土交通大臣
第4章 プレパッケージ型法的整理と稲盛和夫

 これまで経営実態を隠してきた会社だけに、今回の再建についても、本物かどうかという疑問が持たれており、それが著者がこの本を書く動機にもなっているのだが、その答えは...

短期的には課題がないわけではないが、JALの再建は当面、本物と言ってよいだろう。しかし、長い目で見て生き残っていく力が付いたと判断するのは早計だ。厳しく言えば、短期的に採算を良くするだけの経営再建に過ぎず、本質的な再建とは言えない。その意味でJALの再建は偽物だと断じる人がいてもおかしくはない。

 この結論は、この本を読むと納得できる。こんな言い方もしている。

JALが成し遂げたのは、破綻効果と稲盛流の合理化による収益性の改善だ。少ない売り上げでも、利益が出る筋肉質の企業になったということである。一方、上場企業にとっては、多くの一般投資家から投資マネーを集める価値のある成長力が備わっているかどうかも重要な問題だ。

 利益が出る体質は強化されたが、成長シナリオはまだ見えないという。
 短期間で再建を実現して再上場したものの、競争の公正性の問題など課題も残している。ANAが「公平公正な競争環境にして欲しい」と不満を述べたことについて、

ANAにしてみれば、国家が一企業に過ぎないライバルの救済に乗り出して、手厚い再建支援を実施したばかりか、欧米ではこうしたケースでは当たり前の運賃の引き下げ競争防止や新機材の購入制限といった幅広い公正な競争維持のための特別措置を講じてこなかったことへの、溜まりに溜まった不満を爆発させた格好だった。

と解説している。これも一理ある。で、そんなANAJALTOB(公開株式買い付け)シナリオを紹介している。JALの株式というのは、この再建が本物かどうか、ANATOBを仕掛けてくるのではないか、とか当分、思惑を呼びやすのかもしれないなあ。目先は長期投資というより、短期投資の対象なのかも。
 読んでいると、政権交代した民主党政権って何だったのかということについても改めて考えさせらた。JALの場合、自民党政権が問題を生み、モンスターに育て、民主党が収拾不能なほど悪化させたという感じもしてくる。JALを政府主導による企業再建のモデルケースというのは当たらないなあ。ともあれ、JAL問題を考えるのに最適の本でした。
日航再上場初日3830円 税優遇のまま東京新聞 => http://bit.ly/Q3FfQc