オール・ザ・キングスメン(2006年版、ショーン・ペン主演)

アメリカン・ファシズム―ロングとローズヴェルト (講談社選書メチエ) 1949年に製作されたブロデリック・クロフォード主演、ロバート・ロッセン監督の傑作「オール・ザ・キングスメン」をショーン・ペンジュード・ロウアンソニー・ホプキンスケイト・ウィンスレットという豪華配役でリメイクした映画(ウィキペディアによると、監督は前作を見ておらず、原作となったロバート・ペン・ウォーレンの小説の忠実な映画化といっているらしい)。主人公のルイジアナ州知事のモデルは、1935年に暗殺されたヒューイ・ロング。ロングについては『アメリカン・ファシズム』という本に詳しい。実際は、暗殺された時は州知事から上院議員に転じ、フランクリン・ルーズベルトと競い、大統領選を目指していた。
 で、映画のほうは、ロバート・ロッセン監督版のほうが良かったかな、という印象。小説がそうなのかもしれないが、ジュード・ロウの映画といった感じ。芸達者のショーン・ペンにしては珍しく、知事にはどうも深みがない。シナリオのせいなのだろうか。1949年版の主役だったブロデリック・クロフォードはこれでアカデミー主演男優賞をとっている。
ダークナイト ライジング Blu-ray & DVDセット(初回限定生産) この映画の背景にある富裕層対貧困層という構図は現代性があるのだが、そのあたりももう一つ生きていない。映画が製作された2006年はまだウォール街占拠運動が起きる前だし、1%対99%の対立といった格差問題のリアリティを製作陣はをまだ感じとれていなかったのだなあ。「ダークナイト・ライジング」あたりになると、そんな時代の空気を反映して、貧困層の富裕層に対する憎しみがストーリーの背景にリアルに漂っている。ヒューイ・ロングという人自身、富裕層と貧困層、都市と地方という格差問題を利用して(扇動して?)、のし上がった政治家らしいけど、そのあたりの感情も含めて映画に昇華していくと、違うテイストが出たのかな。もともとは大恐慌の時代を舞台にした映画を1950年代にしてしまったところで、貧困に対する恐怖や格差に対する怒りは希薄化してしまう。本当は2008年のリーマン・ショック大不況のあたりで映画化していると、この映画も別のテイストに仕上がったのかもしれない。リメイクの時期をちょっと早まったのだろうなあ。※ こちらがブロデリック・クロフォード主演の1949年版。