田口ランディ『サンカーラ』

サンカーラ―この世の断片をたぐり寄せて

サンカーラ―この世の断片をたぐり寄せて

 サンカーラとは、「この世の諸行を意味する」という。そのタイトル通りに、東日本大震災福島原発事故を契機に、義父母の死、兄の死、父の死、原発をめぐる対話、放射能に汚染された飯舘村で暮らすこと、広島、水俣と、田口ランディがたどってきた様々な物語が語られる。震災の後、「ブッダについて書いてみたい」と思い立って書き始めたというが、それは被災地を単に訪ねることではなく、自分の内面への旅になっていく。そして、読者も自分の内面を直視することになる。震災の後、多くの言葉が氾濫したが、それに対する違和感、そして自分自身の言葉が立ち上がっていかない焦燥。これには共感する。そしていま重要なのは沈黙であり、沈黙の中で自分自身を見つめることなのかもしれない。読み終わって、そう思った。