遠藤誉『チャイナ・ギャップ−−噛み合わない日中の歯車』
- 作者: 遠藤誉
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2013/02/20
- メディア: 単行本
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日中関係の修復というのは、双方の国内事情に加え、米国の対中戦略も絡み、なかなか厄介な話であることも改めて知る。そうしたなかでも安倍首相に期待がかかるのは、第1次政権時代に現実的な対応で、小泉首相時代に悪化した日中関係を改善した実績があるから。これは中国側もそう思っているフシがあるという。米国でも、共産党政権時代のソ連との関係改善・緊張緩和を進めたのは、ニクソンとかレーガンとか保守強硬派とみられていた人たちの現実的な対応だった。どこの国でも、右の人のほうが右の強硬論を抑制しやすいというところもあるのだろうなあ。安倍首相も、立ち位置としては右であっても、現実的な外交を続けると、日中・日韓関係などアジア外交の修復と再構築ができるんだろうけど。
欧米系のメディアは政権発足当初、安倍内閣のアキレス腱は、超保守的な閣僚が多いことと論じているところがあった。確かに経済では好スタートを切ったが、早くも靖国神社への閣僚参拝やら、首相の奉納やらで、韓国の外相が訪日を中止している。おもねる必要はないが、もっと政治的に行動する必要があるんだろうなあ。ここは曖昧戦術なんだろうけど、国内の保守派と、どう折り合いをつけるかとか、中国は中国で国内事情からの反日教育はやめられないようだし、難儀な話が多いけど、感情ではなく、戦略をもって政治的に対処しないとなあ、とか、読んでいるうちに、そんなことも考えさせる1冊でした。
目次で内容を見ますと...
はじめに−−日中領土問題解決のために
第1章 中国の対日外交−−揺れ動く軸足
第2章 「カイロ密談」−−中国、尖閣領有権主張の決定的矛盾
第3章 愛国主義教育はなぜ始まったのか−−甦った反日感情
第4章 逆行して膨張する反日感情
第5章 チャイナ・セブン−−中国新政権と対日外交
第6章 米中構想を見逃すな
おわりに−−カイロ宣言に翻弄された人生
歴史のある国だが、近代国家としては中国はまだ大きな子供みたいなところもある。すぐに日本の歴史認識を問題にするが、確かに、どうかと思うところがないわけではないが、中国の歴史認識の方にも問題がある。この本を読んでいると、対日戦争は知っていても、アヘン戦争のことは知っているんだろうかと思ってしまう。中国では天安門事件のことを知らない世代が増えているという話もよく聞く。
遠藤氏の『チャイナ』シリーズは、この本に限らず、歴史、文化から中国の問題を分析・解説するのだが、そこがなかなか興味深い。この本の場合、例えば、先日の反日暴動と戦前の日貨排斥運動を重ねあわせて...
それでも敢えて書くなら、第一次世界大戦で疲弊するヨーロッパ経済に比べて急速に成長していった中国の民族資本の産業があったからこそ、「日貨排斥」を叫んでも大丈夫だったという要素も見落としてはならないと思うのである。(略)
反日デモは、今後も必ずまた起こり、そしてその時には必ず「日本製品ボイコット」を叫ぶ若者が出てきて破壊活動をするだろう。その暴挙の度合いは、「中国経済の成長」に伴って「加速する」。
なるほどなあ。
反日デモがあると、日本の中国ウオッチャーが「ガス抜き」とか、「共産党の基盤が弱くなったので、反日に目を向けさせて関心をそらしている」と解説することを批判して...
いまの中国政府が恐れているのは、実は反日デモであり反日暴動である。なぜならそこには「人民の声」が潜んでいるからだ。いかなるデモでも最終的には必ず矛先を政府に向けてくる。反政府ベクトルを持つ運動を政府が「やらせる」だろうか。それを見抜かないと中国の実態も弱点も見えてこない。
それをもたらし加速させたのは江沢民が始めた愛国主義教育である。
愛国主義教育として「反日」を使ったわけだが、これは諸刃の剣になっているという。ともあれ、好きとか、嫌いとかを越えて、ご近所さんとどう付き合っていくのか、考えさせられる1冊です。まずはお互いをよく知ることなんだろうなあ。