津野海太郎『図書館の電子化と無料原則』

 なぜ図書館の利用は無料なのか−−その原点を考え、さらには電子書籍時代の図書館のあり方を考える。日本で図書館の利用が無料になったのは戦後なのだな。憲法9条と同じように、米国が占領下の日本の法律の中に持ち込んだものとは知らなかった。本は商品であると同時に、公共資産。そして公共の知的資産としての役割を考えると、紙の本であろうと、電子の本であろうと、広く無料で提供することの意味は大きい。自学自習の場を無料で提供するは、テクノロジー失業とか、知識による社会的格差の問題が議論される現代では、図書館はさらに重要性を持つようにも思える。米国とか英国とか、図書館の無料原則をとってきた国のほうがイノベーションに強いようにみえるのも、理由がないことではないかもしれない。イノベーションは、それまでの知的な蓄積の上に築かれるから。どれだけ知的資産が市民に開かれているかが、創造力の広さと深さにつながるのだろう。図書館利用の無料原則というところから、そんなこんな、いろいろなことを考えさせられる本でした。