ゲッツ・W・ヴェルナー『ベーシック・インカム−−基本所得のある社会へ』

ベーシック・インカム―基本所得のある社会へ

ベーシック・インカム―基本所得のある社会へ

 20世紀的文脈で言うと、無条件で国民全員に最低所得を保障するというベーシック・インカム社会主義的な弱者救済の発想と思われがちだが、この本はむしろ、21世紀的発想。技術が進化した現代先進国において議論されている「テクノロジー失業」がベースにある。もはや完全雇用は難しいのではないか。それは政策目標とはなりえないのではないか、という考えがベースにある。そのうえで、社会的な安定と幸福のために何があるかという考えを突き進めていった果てに「負の所得税」ともいっていいベーシック・インカムにたどり着く。そこが新鮮でもあったし、今後、深刻化すると思われるテクノロジー失業の社会問題を解決する一つの方策であるような感じがした。
 社会主義的なエリートに率いられた官僚機構が大衆を救済するという発想と違うのは、年金も社会保障もすべてをベーシック・インカムという形に簡素化することで官僚機構を効率化、縮小できるという考え方。年金、社会保証の膨大な事務経費が削減できるという。確かに、日本でも、どのぐらいのコストがかかっているのか、調べてみたくなる。日本年金機構は要らなくなるわけで、大量失業しかねないわけだが、それもベーシック・インカムがあるから、安心か。加えて、社会主義者が目を向きそうなのは、代替財源は消費税(付加価値税)であること。消費税率の目標としては「50%」などという数字まで飛び出す。企業の間接的な社会コストもなくなるので(賃金もベーシック・インカムを換算して調整されるので)、その分、製品価格は下がり、消費税率が上がっても、消費税込みの販売価格はそれほど変わらないという。まあ、このあたり相当、議論はありそうだけど。
 議論百出、財政的に成り立つのかとか、みんな遊んでしまう社会になるとか、ツッコミどころがいろいろとあることはわかるし、非現実的な話にも思えるが、テクノロジー失業の時代を迎えて、どのような社会政策が望ましいのかを考える上では、かなり刺激的な議論の出発点だと思う。完全雇用状態を疑問視してスタートしているところが、なかなか興味深い。ベーシック・インカムは一考の価値がある。それにイノベーションを生む社会を考える上でも興味深い。この本でも、競争社会と格差社会の果てに、若者たちがリスク回避の安全志向に陥らざるをえない状況にあるとしている。これはドイツを念頭に置いているのだろうが、日本でも変わらない。社会政策でもあり、成長戦略になりうるのかもしれない。
 目次で内容を見ると、こんな具合...

序言−−私たちは転換点に立っているのだろうか
第1章 ゲッツ・W・ヴェルナーの提言、および彼とのインタビュー
第2章 ベーシック・インカムの効果について−−論考とインタビュー
第3章 反応

 ヴェルナーはどドイツの実業家で、ベーシック・インカム導入の提唱者。インタビューが中心なので、読みやすい。
 ベーシック・インカムをめぐる議論に関しては、日本では、こんな人も...

働かざるもの、飢えるべからず。

働かざるもの、飢えるべからず。

 ちなみに、テクノロジー失業については、こんな本がある。
機械との競争

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